「……綱吉?」
玲瓏とした声に意識を引き戻される。
俺の膝を枕代わりに眠っていた恭弥さんは、いつの間にか目を覚まして、下から俺を見上げていた。
それが、昨日も見た夢の中の恭弥さんと重なって…
「恭、弥さん…」
「何…?一体どうしたの、君今日おかしいよ?」
ああ、ああ、恭弥さん。
俺の、恭弥さん。
束縛を異常なほどに嫌う貴方が、唯一俺にだけは許してくれた。
それが、どれだけ俺を喜ばせたか知ってますか?
愛してます、愛してます恭弥さん。
「恭弥さん…俺、貴方が好きです」
「…知ってる」
「だから、だから、ねぇ…俺のこと…」
奪って。
その言葉は、吐息ごと貴方に奪われた。
「ん…」
「…いいよ、君の願いは僕が叶えてあげる。奪って欲しいなら根こそぎ奪ってあげるし、僕が欲しいなら残さずあげる。でもね…」
そう言って、また口付ける。
その先の言葉が予測できて、俺はまた笑った。
…あれ?何で俺、次に恭弥さんが言うことがわかるんだろう。
「僕を閉じ込めるのは駄目だよ?そんなことするなら、僕を殺してからにしなきゃ…それからなら、鳥籠に入れようが氷付けにしようが、君の好きにすればいい。でも、今は駄目…わかったね?」
そう言って薄く妖笑を浮かべた顔が、夢の中の恭弥さんと重なった。
ああ、ああ、やっと思い出した。
眠っていたはずの貴方の言葉。それに対する俺の答え。
(『いけない子だね、綱吉…僕を閉じ込めるのは駄目だよ?そんなことするなら、僕を殺してからにしなきゃ…それからなら、鳥籠に入れようが氷付けにしようが、君の好きにすればいい。でも、今は駄目…わかったね?』)
なら、なら。
貴方を閉じ込めるのが無理なら、せめて。
(『なら、俺を閉じ込めて…』)
「なら、俺を閉じ込めてください…」
(『…喜んで、』)
「…喜んで、」
ああ、ああ、やっと思い出した。
夢の最後。いつも、貴方と俺は入れ替わる。
深海魚
(溺れたのは俺だった)
(閉じ込められたのは俺だった)
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