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そんな芸術品とソファーで相席しながら、俺はなぜか、この漆黒も死ぬのだろうかと考えていた。
とくに深い意味はない。
強いて言うなら、最近よく見る夢のせいだろう。


夢の中で、俺はなぜか夜の荒野に立っている。
どこかなんて全然わからない。日本じゃないことだけは確かだ。
煌々とした月明かりだけを頼りに真っ直ぐ進んでいくと、視界の先にぽつんと佇む漆黒が見える。
恭弥さんだ。
俺は嬉しくなって愛しい恋人の元に駆けていくが、抱きつく寸前にいつも気付く。
……泣いてる。
夢の中で、恭弥さんはいつも泣いていた。
声も出さずに、ただただ月明かりの下に立ち尽くして、真珠のような涙を零している。
それがあんまりにも綺麗で、あんまりにも切なくて。
耐えられなくなって、思わず触れようとすると、必ず一度目が覚める。
この夢を見るとき、決まって俺は独りだった。
隣に恭弥さんはいない。
いつもなら平気なのに、俺は無性に寂しくなって、せめて夢でもう一度逢いたくて、また眠った。
空には、まばゆい月が一人ぼっちで浮いている。


すぐに、俺は荒野に来ていた。
でも、目の前に恭弥さんはいない。
また独りきりで歩き出す。
しばらく歩くと、大きな岩が見えてきて、そこの下には洞窟が続いている。
いつもなら怖がるであろう暗い道でも、躊躇わずに進んでいった。
暗い洞窟の奥、澄んだ湖。
上から漏れる月の光に水面が反射してきらきらと輝く、その絶景に思わず感嘆のため息を漏らした。
青い湖を覗き込んで手をつける…かなり冷たい。
けど、その奥に見慣れた漆黒を見つけて、俺は目を見開いた。
恭弥さんだ。
深い深い湖の底。あまりの冷たさに凍りついた底の氷の中に、氷付けになっていた。
死んでる。
何の確証もないが、夢の中の俺はそう確信していた。
氷を棺のようにして眠る恭弥さんは、いつもと変わらず綺麗だ。


触れたい。
あの冷えた顔(かんばせ)に触れたい。


必死に手を伸ばすけど、なぜか湖に飛び込むことはできなくて。
それで、それで…
……それで…?

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