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この漆黒も死ぬのだろうかとふと思う。
いくら人間離れした戦闘力を誇っていたとしても、肉体的構造は人間のそれであるはずだ。
というか、そうであると信じたい。
そうは言っても、この男の美貌もこれまた信じられないほどのもので、人間というより、最早人形のそれだ。
もしくは、妖の類だろうか。
それも獰猛な。
だからだろうか、俺には彼の人が地に伏すところなど想像だにできない。
屍の上に君臨はすれど、その中に入るなど。
最も、畳の上の布団に白い着物で眠るよりは、戦場で赤い死に化粧をして眠っている方がよっぽど似合う気がするのだけれど。


普段はあるように見えてないような、またないように見えてあるような、そんな曖昧な表情をしているけれども、一度戦場に出ればその無機質さが嘘のように歪んだ笑みを浮かべている。
彼の戦いはあまりに美しく、背筋の凍るような、それでいて圧倒的で、酷く暴力的なものだった。
皆、口を揃えてこう言う。
『彼は鬼神だ』
『狂った戦闘狂』
『近づくと殺される』
どうしてだろう。どうして皆、その狂気に美しさを見出さないのか。
一切の迷いを捨てた一閃は、確かに狂気の証。
けれど。
あれほど美しい戦いはない。
あれほど美しい人はいない。


「もったいない。あれほど美しい狂気はないのに」

そうとしか思えない俺も、とっくに狂っていたのだけれど。




戦闘ではそんな狂気に支配される人だけれど、普段はとても品がいい。
(いや、むしろ戦闘中だって気品を失わないのだけれど)
すらりとした立ち姿だとか、優雅に腰掛けるその気品。
どれを取っても、一般庶民の出である俺には逆立ちしたって真似できない一級品だ。
ボスとして教育されてきたからこそ、わかる。
この人の品格は、本物だと。
たくさんの人を見てきた。たくさんの偽物を見てきた。
だからわかる。
これは、幼い頃からの習慣でしか身につかない、多くの人間に傅かれて生きてきた者特有のものだと。
いつだったか、名家の出だという情報を耳にしたが、それは本当だったようだ。

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