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マフィアのボスだと、言われなければ気付かないような、それくらいに綺麗な笑顔で笑う青年だけを、アラウディはボンゴレと呼んだ。



そもそも、自分が"アラウディ"と名乗ったのは何時からだったか。嗚呼、そうだ。あの男と、ジョットと出会ってからだった。もう会わない相手だろうだと思い、たまたま知った鳥の名を名乗ったのだが、それをこれほど長く使い続けることになるとは、流石に思わなかった。
再び、長く親しんだ"アラウディ"の名を捨て、もう一つ、長く使う名に戻ったが。変わらず、諜報部の長として、任務をこなす際。書類に"ボンゴレ"の名を見つけることが多くなり、一度だけ溜息をついた。もう、黎明期とは違う。今のボンゴレは、自身の、そして国家の明瞭な敵となった。

激動期には混乱が大きく、軍は様々に起こる反乱やら社会的混乱を収めるのに明け暮れ、規模の小さな新興のマフィアなどに時間も人員も割いていられなかった。
その上、ボンゴレはマフィアとはいえ、実質は自警団。様々の組織から、食料や武器などは奪うが、その戦力が国に向かうことは滅多に無かった。国家に仇為す過激派などを勝手に潰してくれることもあったから、半ば見逃されていたと言ってもいいだろう。そうなるよう、自身が仕向けた。実際ボンゴレの規模は小さく、マフィアとしての認知度は低く、トップはあの通りの御人好しであったから、民衆には好かれていた。彼らを庇う証言には事欠かなかったのだ。

アラウディとして最高幹部の地位を取った自分が、そうと気付かれないよう、さも外部から、または部下のスパイから得た情報によって、実害が出るまで、また、危険要点が出るまで、放置しても問題なしと報告していた。
恐らく、自身に近しい、諜報部外の上官の何名かは、気が付いていただろう。ボンゴレの"アラウディ"が、自身だと。しかし何の追求も無かったことから、僕自身も見逃されていたに違いない。
元々長官でありながら、自身で動くことが多かったのだ。多少外出が増えたところで、あの忙しさの中だ。特に問題は無い。



「貴様の正義は何だ、アラウディ」
「愚問だね、ボンゴレ。僕の正義は―――…」



彼と交わしたあの問答は、今でもよく覚えている。きっかけが何かなんて、最初の想いなんて、はじまりの声が何だったかなんて、もう憶えてなどいないけれど。
現実は重くて、真実は理不尽で、世界は暗くて、絶望は大きくて、忘れるしかなかったけれど。
原初の願いを、想いを、何時までも秘めたままに拳を振るうジョットは、決して嫌いでは無かった。その甘さに、命取りの優しさに、自己犠牲しがちな態度に、何度も苛つき、何度も意見を違えたけれど。そもそも、主要とするのは軍部だから、滅多なことでは迎合しなかったが。



嗚呼、そうだ。僕は。きっと、心のどこかで、彼が羨ましかったのだろう。自分が捨てたものを、いまだに持ち続ける彼が。極稀に、そう想ってしまったんだろう。軍さえ腐り果てた、どこもかしこも腐敗だらけのこの世界で。

「お前は、俺の大切な人だよ。」

そう、何の屈託も無く、笑う彼が。守る力を求め、裏を覗き込んでもなお、透明さを持ち続けられる彼が。
僕と彼はいつだって対立していた。甘さを、弱さを捨て、冷たい孤高と引き換えに絶対的な力を有した僕。
甘さも弱さも捨てず、否、捨てられず。取り零す哀しみと引き換えに、暖かさを失わなかった彼。
守る力が手に入るならば、温もりなどいらない。温もりになど固執することで、失うのならば、そんなものいらない。
捨てたくせに?そう、捨てたくせに。
どちらが正しいかなど、そんな答えはどこにも無い。そんなものは存在しない。傷だらけの僕等が、我武者羅に選び取った道だ。



確実に力をつけ、巨大になっていくボンゴレ。門外顧問を退いた今、自分が出来るのは、敵対のみ。
僕を自身の雲として欲しがった二世を脳裏に描き、当時の会話を思い出す。



「残念だ、門外顧問。お前と敵対するとはな」
「僕もだ、二世。君とは同士として知り合いたかったものだね」



ジョットよりは、僕に近い性質の二世。僕が雲の座を断ったとき、彼が取るであろう手段など、思考しなくても理解できた。そしてそれは、あのジョットならば決して、取らなかったであろう手段。

敵対。

味方にならないならば、ましてや、敵対組織に帰還するというのならば、見過ごせるわけがない。それでもまだ、彼も甘いのか。もしくは、一世の人間である僕への、最後の敬意か。最後の会話を交わした後、ボンゴレの根城から軍部に帰るまでは、平穏な道ではあった。そうして僕は軍部に戻った。僕はまだ、戦場から退けそうにない。



なぁ、ボンゴレ。お前は知らないのだろうね。
僕は、お前だけを"ボンゴレ"と呼ぶ。
その意味など、莫迦で甘ったれでどこまでも餓鬼で、本当は戦争など、抗争など大嫌いだったお前は、知らなくていいよ。



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