BL | ナノ


軍人とマフィア。
この二つの肩書きを、両立するのはどれだけの矛盾が伴うのだろうか。
少なくとも、下っ端ならば、そこまで問題ない。高位であれど、スパイもまた問題なしだ、むしろ上に昇りつめれば昇るほどいい。
だが。もし、これが、スパイでも何でもなく、その上。軍人としては、諜報部長官という、国家秘密を幾つも握るであろう立場。そして、マフィアとしては最高幹部という、高位の立場。
この二つを兼ねるのは、如何なものだろうか。

かつて、この双方の肩書きを兼ねていた者を、新興マフィアから一気に、軍部に要注意ファミリーと呼ばれるまでになったボンゴレの、元ボスであるジョットは、一人知っていた。
名を、アラウディ。
姓は知らない、そもそも、この名が本名かも定かではない。むしろ、偽名だろうと踏んでいる。もしかしたら、どこぞの貴族やら軍人家系の三男坊辺りなのかもしれない。正直、その辺りは特に気にしていないので、深くは追求していなかった。
彼は、自分と出会ったときには、既に軍人だった。自分の肩書きを明かしてはくれなかったので、長官に昇進していたか否かまでは解らない。
永久に相容れないだろうと思っていた、自警団…とはいえ、実質マフィアの自分と、軍人のアラウディ。その自分達が関わりを持つに至ったのは、一重に、双方の「正義」が重なったからに他ならない。



「貴様の正義は何だ、アラウディ」
「愚問だね、ボンゴレ。僕の正義は―――…」



嗚呼、そうだ。彼はあの時。言ったのだ、確かに。

「僕の正義、それは。―――――"自由"」

彼は誰より自由を求めていた。
それと自身の求める正義、それは滅多なことでは重ならなかったと言っていいだろう。
事実、門外顧問と呼ばれる組織を樹立したあの男は、見事なまでにボンゴレには関わらなかった。有事の際には一応助力の姿勢も見せてくれたが、それも片手で数えられる程度だ。むしろ指が余る。けれど。



「なぁ、アラウディ。お前は今も、戦っているのか。」



遠い、遠い空の下。国さえ別たれた先で、かつて最も慕った雲を思う。
組織を二世に譲り、大半の守護者が隠居し、このジャッポーネに移り住んだが。
彼だけは、最後まで断固として足並みを揃えなかった。
門外顧問の座を退いた後も、軍人としてあり続けた。彼自身の正義の為、守るべきものの為に。


誰より強くて、誰より孤高で、誰より一人で、そして誰より。悲痛な決意を宿した人。
互いの正義の、根本が重なっていたからこそ、自分達は僅かな間、互いの手を取り合えた。
守りたかったのだ、腐った貴族の、堕落した上層部の、犠牲になる人達を。
自分の自己犠牲をいつだって諌めてくれたくせに、最後まで自分の身を、自身にとって至高の正義の為に捧げるのだと言った人。
ただひたすらに、一途に、その意思を貫く人。
それが自身の幸せであり、生きる価値であり、自由だと言った人。

本当の幸せはそうじゃないとか、偉そうに説教するつもりは毛頭無い。
激動の中を生き抜いて、様々な人間と関わって、自分の価値観は、雑多な人生観の一つに過ぎないことを身を持って知った。
だけど願いは、いつだって変わらない。



「なぁ、なぁ、アラウディ。お前が拒んだって、俺はずっと、願い続けるよ」





―――――お前が、幸せであればいい。
自分の願いは、あの頃からずっと、ただ一つだけ。





殺しをしたいわけじゃなかった。
抗争がしたいわけじゃなかった。
戦争をしたいわけじゃなかった。

僕等はただ。
しあわせになりたいだけだった。

いとしい人が。
しあわせでいて欲しいだけだった。


prev / next


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -