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何だコレ。
心臓が、煩い。


「え、ええ!?な、何で二人が、倒れて…」


煩い。
五月蝿い。

ウ ル サ イ。


何なんだ、コレは。
揺れる蜂蜜色が、あたふたとする動作が、泣きそうに震える表情が。
彼女が何か言っているのも、意味を成さない音の羅列と化して、すり抜けていく。
普段は滅多なことでは動じない心臓が、乱れる。大きく跳ねるわけじゃない、ただ、とくん、とくんと、規則的に、けれど少し大きく脈打っていた。
心臓の脈打つ動きが、脳髄に伝わっていた。


目の前の小動物が、怯えて、僅かに眸を潤ませながらも、だけど真っ直ぐに僕を見た。
普段の僕なら。そんな様子にも、なんとも思わないはずだった。
怯えるだけで、所詮は弱い草食動物。真っ直ぐ僕を見詰める気丈さは認めてあげてもいいけど、それだけだ。


そう。
何とも思わない、はずだったのに。


どうして僕は、その瞳から眼が離せない?



「か、勝手に入ってごめんなさい!で、でも!やり過ぎです…!これ以上、私の大切な友達を、傷つけないで下さい!」


あってはならない。
この僕が、この雲雀恭弥が。
こんな女の瞳に、気圧されるなどあってはならない。

だって、ありえないのだ。
ありえない。キモチワルイ。
本来の僕の感情がぐちゃぐちゃに掻き乱されて、その上に乱暴に塗り替えられているような、不快感と異物感を感じる。

嫌だ。この女は。





強い。

違う。

綺麗な瞳だ。

違う。

また会いたい。

嗚呼。
無意識に伸ばした手。それが、彼女に届く、その前に。
微かな気配が動いて、そうして、全く緊張感に欠ける明るい声音が、待ったを掛けた。


「…そこまでだぞ」
「あっ!り、リボーン!」

「……何、君」

「やっぱ強えーな、お前」
「質問に答えてくれる…それとも君から、咬み殺そうか?」
「悪いが、今日はお開きだ。またな、ヒバリ」
「っ!?」


一方的に会話を断ち切り、取り出される何か。
それを見て、瞬時に爆弾と知れば、とっさの判断…否、最早条件反射で、爆撃の被害が及ばぬ場所まで、床を蹴って飛び退く。

校内で何やらかしてくれてんだあの赤ん坊、という考えに至ったのは、彼らの姿も気配も、すっかり遠ざかった後だった。



「…また、会いたいな」

沢田、奈都。


無意識に自分の口から零れ出たその言葉。
それに眼を見開き、瞠目し。
苛立ち任せに振り切ったトンファーが、校舎の壁を抉った。


ありえない。
ありえない。

こんなこと。

この僕が、この雲雀恭弥が。
恋情を、庇護心を、抱くなんてありえない。



感情を。
支配されるなんて、ありえない。

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