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ふわ、と、抜けない眠気を引き摺って、今日も応接室へと登校する。
久し振りすぎて、ついうっかり遅くまで遊んでしまった。
制服のボタンを第一まで留めているから誰も気付かないし見えないが、首元に咲く一つの赤い華が、昨夜二つ先の街で遊んでいた男が己なのだと示す唯一の証拠。
例え誰かに見られたとしても。痕も何も無い状態で、雲雀が「は?何言ってるの君、寝ぼけてた?」とでも言えば、その相手も、もしかしたらそうだったかもしれないと自分を疑う程度には、並中での僕はストイックな印象を抱かれているのだろう。

携帯に踊る文字―――――「また遊んでね、叶くん」
末尾にはご丁寧にハートマークまで。どう見ても女子からのメールだ。
それに対し、「気が向いたらね」とだけ返して、欠伸零しつつ、書類に向き合った。

ちなみに。"叶"というのは、僕の偽名だ。主に遊ぶときに使っている。
本名の恭弥、最初の「きょう」を取って、それに漢字を当て嵌めて、「叶」。
名づけ親は、言わずもがな、凪。
それなりに気に入っているので、今でもこの名を使っている。
午前中のうちに、会議に出席し、鬱陶しかった群れを風紀委員にぼこらせ…というより、自主的に動いてくれたが。
まぁ、とにもかくも。そんな感じに過ごしながら、半分ほど片付けた書類。そういえばもう昼休みかと、静穏から喧騒へと周囲の気配が変化するのを過敏に感じ取れば、一度ペンを置いた。
軽く身体を伸ばし、考えることは、さて昼食はどうしようか。
とりあえず草壁に珈琲を入れさせ、昼の見回りに行くという彼を見送り。カップを机に置いて、ポケットで震えた携帯を出そうかと、ソファーの背凭れ部に、腰を預けたところで――――…



「へぇ、こんないい部屋があるとはねー…」


扉の、開く、音。
嗚呼、誰かな。この部屋に無断で入ってくる人間は、実は喧嘩売りに来る不良以外、ほとんど居ない。
嗚呼、笹川了平が、稀に来るか。でも彼は、ノックとかを忘れる人種だから仕方ない。毎回きっちり咬み殺すだけだ。
頻繁な来訪者である草壁は勿論、ローテーションでマイペースな凪も、当り前にノックはする。
それがなかった。イコール。僕の中で、喧嘩売りに来たと判断した。





一匹、二匹。
銀髪と黒髪…二人を殴って気絶させた後、はたと、思い当たる節は、一つ。
何だか見覚えのある顔、彼らは。
そう、思考に意識を奪われたのが悪かったのだろうか。


「っ、ご、獄寺くん!山本!」



眼前に現れた、蜂蜜色。
ふわりと凪ぐ柔い髪。
大きく、零れそうな眸。
桜色の頬。

どくん、と。
僕じゃない僕の意思で、心臓が跳ねた。



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