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最近、碌に眠っていない気がする。




「委員長!」
「…今度は何、」


最近恒例になってきた、草壁の僕を呼ぶ声。
「今度は」と、僕が尋ねるほどに。
毎度毎度、こうして厄介事が持ち込まれるんだ。
次は何だ、爆破か、発砲か。嗚呼もう、イライラして、そこらにたむろする草食動物の群れを片っ端から咬み殺したい気分だよ。
肩に引っ提げた学ランを翻し、連絡を受けた先、つまり不良が集っているらしい箇所へと向かう。

事の始まりは何だったか。確か、そう。
最初は、一年二人の退学騒ぎ。いや中学は義務教育なんだから退学は無理だろうと僕が突っ込む前に、起こったグラウンド爆破騒ぎ。
加えて、偶然掘り起こされた40年前のタイムカプセル。トドメは根津とかいう教師の学歴詐称事件。
それから、野球部エースの自殺未遂に、校内飛び交う謎の武器、破壊音。
街中爆破騒ぎ、おにぎりを作るという謎の実習後、走り回る男子生徒達。
嗚呼くそ、挙げていけばキリがない。
っていうかさぁ、何で日本でこんなに爆破騒ぎ起こってるの、なんで発砲事件多発してるの。スラムか此処は。
突っ込みたいのを必死に押さえ込んで、額に青筋立てながら溜まりに溜まった書類をこなした僕は褒め称えられてもいいんじゃないかなと思うんだけれどね。

夏休みに入って多少は落ち着くかと思っていたら、そんな淡い期待は容易く崩れ去る。
補習プリントに間違って超難関大学レベルの問題が紛れ込むミスと、そしてまたもや町内爆破事件。
夏休み後半、やってられるかと凪の元に逃げ出した僕は悪く無いはずだ。
幸い、後半はそこまで大きな騒ぎも起こらなかったしね。


そしてようやく始業式となったわけだが。
多分、今日からまた騒がしい日々の襲来なんだろうなと思えば、溜息の一つでも付きたくなるというもの。
中心、というか、台風の目のような存在である沢田奈都とは、一学期に何度か姿を見かけたが、何だかんだ言いつつもその表情は楽しげだった。
何というか。やるせない。
当事者でもない僕がこんなに疲労困憊だというのに、当人達は楽しそうとはどういうことだ。
そんな理不尽な怒りが思い出したことで甦ってきたので、今日の不良はいつもより念入りに咬み殺しておいた。
軽く入院かな、理不尽とか知らない。



「…風紀を乱すと、咬み殺すよ」

既に意識の無い連中。返り血のついたトンファーを軽く振るい、その場を後にする。
…ちなみに。僕のいう風紀に、不純異性交遊は含まれていない。
故、カップルは僕と出会ってもびびるだけで、交際云々で焦りはしない。
勿論、群れてたら咬み殺すけどね。
何でってそれを取り締まるのは不可能だと思ってるし、まず。凪のせいで、交際禁止にしたら僕自身も取り締まらなきゃいけなくなるじゃないか。
朝来たメールに返信を打ちながら、そんなことを考える。
それが終われば、ポケットに携帯を放り込んで。再度応接室に戻れば、本日の遅刻者無しとの連絡を受ける。
さすがに始業式に、遅れてくる莫迦はいなかったか。



「…草壁。今日は帰るよ」
「へい、委員長、お気をつけて」

珍しく、日が完全に暮れる前には片付いた仕事。これは奇跡だ。
ならばこの機会を逃すまいと、早々に帰宅準備に入る。
ボクシング部でなにやら騒ぎがあったらしいが、対応は草壁に丸投げした。何も爆発していないし、彼で大丈夫だろう。
たまには、僕も夕陽を浴びて帰路につきたい。嗚呼、そうだ。
思い出したように、再び携帯を取り出す。
帰ってきていた返信に、再び文章を打ち込んで。そうして、途中でバイク拾って、家とは反対側へと転がした。
途中、街外れで入る店。
此処は僕がよく利用する店で、黒曜との町境にある。

僕にも恐れない、但し態度は弁えた妙齢の女性が店長の、高級ブティック。
その高価さ故、込み合いは滅多に見られない。凪セレクトの、いい店だ。
そこを、僕は一種のクローゼット代わりにしている。
靴音響かせて入った店は、相も変わらず上品な香りで満ちていた。


「…あら。いらっしゃい、秩序様」
「久方振り。着替えに来たよ」
「ええ。奥の部屋、いつも通り置いてあるわ」


秩序様、と、彼女は僕を、冗句交じりにそう呼ぶ。
けれど不快感は募らない。僕を見下したわけでも、侮ったわけでもない台詞だからだ。
すたすたと店内に歩いていけば、見慣れた部屋が視界に入る。
ドアノブ握って、室内へと脚を踏み入れれば。
其処に広がるのは、僕の私物の洋服。
カジュアルだったりシックだったり、大抵は凪の趣味だ。凪に好き勝手コーディネートされたから、僕の趣味も自然、そうなってくる。

制服を脱いでハンガーにかけ、暫し悩んだ後、深い藍色の線が入った黒のシンプルなシャツと。上にはワイシャツのような白シャツを羽織り、黒のスラックスを履く。
気に入りの、銀細工のネックレス。しゃらりと鳴る細い鎖の、金銀二連ブレスレットを身に付ければ、次に手に取るバーベルピアス。
丁度髪に隠れて見えない位置に、空いてるピアスホール。
細いそれを差し込んで、一部だけ髪を伸ばせば、完成。



「じゃあ、また夜にくるよ」
「嗚呼、いってらっしゃい」


"風紀委員長"雲雀恭弥を、全くといっていいほど感じさせぬ容貌。
しゃらと手元のブレスを揺らし、夕闇の中を、再びバイクで走りぬけ――――辿り着くのは、二つ先の街。
待ち合わせ場所に立つ女子の元へ、歩み寄る姿を、誰も「雲雀」だとは思わない。


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