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……物語は、思うようには進まない。



「委員長!」
「…何、」

始まりの合図は何だったか。
嗚呼、恐らくこの日だろう。
書類整理に勤しむ傍ら、少し疲れたと、一旦手を休め、珈琲を飲みながら寛いでいた。
左手にマグカップ、右手には携帯。

…余談だが。
僕のプライベートの携帯には、女子のアドレスも多い。よくメールが、たまに電話がくる。まぁ、返すのはそのときの気分だけれど。
それでも、此処は多分、薄い記憶を辿るに、本来あるべき"僕"とはかけ離れているのだろう。
しかし気にはしない。だって、今現在生きている僕は僕でしかない。文句は、僕をこうした凪に言ってほしいものだ。

嗚呼、いや。そんなことはどうでもいい。
大事なのは、この日に何が起こったか、だ。
慌てたように応接室まで走ってきて、しかしそれでも律儀にノック、びしと敬礼して入ってきた部下の鑑な草壁の報告により、謎の爆発騒ぎを知る。
人の学校で何をしてくれるんだとさっそく向かって見れば、嗚呼。どうして僕はこの展開に思い当たらなかったんだろう。
蜂蜜色の髪を揺らす少女に土下座している銀髪の少年。
何やら喚いているが、土下座した銀髪に彼女が視線を合わせ、何やら話しかければ、彼は顔を赤くして口ごもった。
そうして話は解決したらしく、二人連れ立って校舎の中へと戻っていく。

……爆発の後片付けも無しで。




「……あ、コレあれか」

その光景、そして、銀髪こと獄寺隼人という名前。しばらく巡っていた思考は、ようやく追いついた。
これは、あれだ。僕の知る未来の一部。
いつの間にやら、物語とやらは始まっていたらしい。
嗚呼。
始まった、物語が始まった。
僕の、決して平穏とは言えない、けれど安定した日常が壊される音が聞こえる。
それを――――笑いながら聞いていた。



「どうでも、いいよ。僕の並盛を傷つけたら、咬み殺すだけだ」

そう、物語なんてどうでもいい。
彼らの、そして僕の、予定された未来など、知らない。

翻す黒い学ラン。
風に靡く黒の髪。
武器持つ己の手。
筋肉ある男の体。

それらを見遣って、トンファーを握った。
僕の記憶にある僕の姿はコレで、微細な記憶以外は、僕以外の何者でもない。
例え末端に、"女"の精神があろうとも――――…





「副委員長、校舎を壊した生徒を炙り出せ」
「はっ!」


敢えて知らない振りをする。まだだ、僕と彼らの出会いは、まだ先。
未来に忠実に…じゃない。
ただ、なるべく接触したくないだけだよ。
だって煩そうだし。僕の並盛の、平穏を煩わせないで。




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