―――――…かつん、カツン。
暗い路地裏に、革靴の足音が反響する。
昼間だというのに薄暗く、周囲には散乱するゴミと腐敗臭が漂い、時折足元を溝鼠が駆け抜けて物音を立て、吹き抜けた風が気配すら攫ってあちらこちらに走り去る。
其れは掃き溜めだった。
そうして、緩慢に其処を歩む男は、この掃き溜めに相応しく無いほど、怜悧な容貌をしていた。
さらりと、流れる銀髪。眼前を見据えた眸は透き通った蒼で、冷たさ感じるまでに整った容姿は、白人を思わせる白皙で彩られている。
ゆらり。静かな歩みは、唐突に止まった。
スパーダァァ…
ノイズがかったような、エコーを聞かせたような。
人間では到底出せぬような、何者かの声。その声が、誰かの名を紡ぐ。
憎しみと怨念の篭もる声が鼓膜を揺らせ――――そうして、人影は笑った。
「You've done warming up yet?」
―――――準備運動は、終わったかい?
刹那。
ダンッ!と地を蹴り跳躍し、上へと跳ねる。寸前まで男のいた地面には、鋭く光る鎌が突き刺さっていた。
赤く光りだす周囲の空間。そこからずるりと這い出る、"何か"。
そう、まるで。雑巾みたいな、ぼろきれのような、ゴミのような。
御伽噺の悪魔のような。
あっという間に辺りを埋め尽くす不気味な存在。
それらが宙を舞い、一斉に男へと飛び掛った。
しかし。男は、笑う。整った口元を酷薄げに歪め、冷えた双眸は愉悦を宿し、僅か細まる。
そうして…
「―――――呼ばれて飛び出て参上!ひっばりさーん!!貴方の武器の到着です!」
「呼んでねえよ帰れ今シリアスだっただろ!!」
シリアスが砕け散った。
男、雲雀の周囲に漂う悪魔的な、いやもう悪魔と断言しておこう。悪魔をその華奢な脚の一撃で全て蹴り飛ばし、雲雀に飛びついた少年。
蜂蜜色の柔らかな髪に、甘い琥珀の眸。すべらかな頬はまろみを帯びて、高揚し赤みを帯びた表情はどこか艶めいている。
しかしハイテンションだった。可愛らしく、そしてうつくしく整った容姿が台無しになるくらいには、雲雀大好きオーラが凄かった。
彼の名は、人間名沢田綱吉といった。
「うう、雲雀さんったら毒舌!でもそんな貴方が好きです!」
「どうでもいいよ!」
「さぁ雲雀さん!どうぞ俺を使ってその麗しの美技を魅せてください!」
「話を聞こうか!?」
きゃっきゃとはしゃぐ綱吉が、よよ、と泣き真似しつつ。そうして、くる、と、宙返りをした。
それと同時、彼の身体が煌と輝く。
眩んだ視界に眸を細め。そうして、次の瞬間には、彼の姿が巨大な大鎌に変わっていた。
黒く、艶やかな鎌だ。その大きさは、雲雀の身長を優に超えている。
溜息をついた雲雀が、綱吉だった武器を握り。
そうして、無造作に、後方へと振り払った。
「雑魚ばかりだ。面倒臭い、さっさと片付けよう」
一閃で胴体を切り裂かれた悪魔が、三体塵へと還っていった。
それを合図に、残りの悪魔が雄叫びを上げて飛び掛る。
余裕の笑みを崩さぬ雲雀の、一方的な虐殺劇が始まった。
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