BL | ナノ






昔の夢を見た。
懐かしい…とも言えないただの記憶でしかなかったが、とにかく、久しく忘れていた昔の感覚が甦ってきた。

聞こえる神楽の音。
嗚呼、そういえば。あの三人をあの蛇が送り返した礼にと神楽を踊るのだと言っていたような気がしなくもない。
変化と違って、擬態には体力も妖力も使うので、休日は完全に擬態を解いて妖狐の姿で、惰眠を貪っていた。
あれがわざわざ神楽を舞わせた目的は知っている。
あの男は先天的に神力の強いものではあるが、神である故に信仰の力で己の神力を高めることが出来るのだ。
神楽とは、神社に仕える神官が舞うもの。つまり、信仰の証。
手っ取り手早く神力を回復するにはいい方法だ。

…面白くない。

自分も山にでも行って自然の力で回復すればいいのだが、何だか気に食わなかった。
だから、決めた。
ここ最近はなりを潜めていた気紛れさが顔を出し、何だか無性に気に食わないから、あの蛇の回復元…つまり神楽で得られる神力を奪ってやろうと思ったのだった。

そう決めて、彼の神社に降り立つ。
人気のない場所…つまり本殿に侵入してやった。
骸も気付いただろうが、こちらにくる気配はない。当然だ。何をやらせてもダメダメ、ダメツナのあだ名を冠している驚異的不器用少年の舞を監視しているからである。
大方、失敗しないように睨みを利かせているのだろう。

雲雀はくつくつと笑い、優雅な動作で床に座った。
こっそりとかっぱらってきた御神酒を取り出し、くいっと煽る。



雲雀は妖狐だ。
けれど同時に、神でもある。
神としての位など、あるかないかである程度のため、正確には「神格持ちの妖怪」と呼ぶべきであるが、一応神の端くれだ。
神としては底辺でも、妖としては最上級。
かつて自分の社を持っていたときは、きちんと宮司も巫女もいて、今のように神楽も舞われていた。その神楽で、僅かな神力を満たしていた。
もちろん、畏れが大きくほとんど信仰など皆無であり、今はもう社の影も形も残ってはいない上、扱いは禍つ神であったが。

けれどやはり、懐かしい。
この神楽の音も、漂う神気も、それにより満たされていく神力も。

さらりと揺れる、長い白髪。
普段回復することのない神力が満たされ、妖としてではなく、神としての自分が大きくなる。
纏う空気も、普段の禍々しいものではなく、僅かではあるが、清廉としたものに。
身体に力が戻ってくる。
もう変化の術も使えるが、もうしばらくこの姿でまどろんでいようと、雲雀は再び御神酒に口をつけた。




prev / next


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -