雲雀恭弥は不機嫌だった。
普段の無表情さが嘘のように、全身に不機嫌オーラを纏っている。
その理由は主に周りの反応であり、だからといって原因を作ったのは他でもない自分自身だったというどうしようもない状況だった。
「おい、あれって雲雀さん!?」
「え、あれ、なんか髪が真っ白なんだけど…」
「つか、髪長っ!どうなってんだ!?」
「……、」
そう、今現在雲雀は、かろうじてその耳と尻尾を隠しただけの、白狐の状態に戻ってしまっていたのだった。
そもそもの理由は、先日の六道骸との遭遇にある。
あちらの世界で顔を合わせ、それが久しぶりだったがために、それは口論では到底収まらず、結局肉体勝負にまでもつれ込んでしまった。
とはいえ、二人とも少し前に未来に飛ばされるという謎の現象に遭ったり(骸は精神のみ飛ばされた)、はた迷惑なファミリーが仇討ちにやってきたりと、何だかんだで力を使っており、決して万全の状態ではなかった。むしろ力が落ちていたといってもいい。
そんな状態での、全力闘争。
…結果は、見えていた。
「……戻れない、」
二人とも変化の術を使えなくなり、かろうじて出来たのは人間への擬態のみ。
その神気や妖気、狐耳や蛇の紋様を隠すことしか出来ず、結果、雲雀は白髪銀眼、骸は長髪のまま日々を過ごす羽目になってしまったのだった。
骸はまだいい。だいぶ苦しいが、幻術の練習なのだとでも言えば、どうにかこうにか誤魔化せないこともない。最悪かつらだとでも言ってしまえばいい。
問題は、雲雀だ。
どうせ変化するなら、と、人間の姿に黒髪黒目を選んだのが災いした。昨日まで真っ黒だった人間が、いきなり真っ白になったらいくらなんでもおかしい。いや、おかしすぎる。
その上、この長髪だ。
考えられる手としては、髪を切り黒く染めることだが、雲雀は願掛けのような理由から髪を切ることを好まない。
染めるのは個人的に好まないし、カラーコンタクトも妖狐の瞳には合わない。
そこまで考えて、早々に事態の収集を諦めた。
このまま学校に行こう、うんそうしよう。
長い髪を、いつものように後ろで結って、着物ではなく制服に腕を通す。
ピン、と立った自分の耳と尻尾を隠し、姿形だけ人間となる。
気をつけなければいけない。
完全に人間となる変化とは違い、今の自分はあくまでも擬態。
人間ごっこをしているにすぎないのだ。
気性はあくまで妖狐。
それも、先日骸という天敵と盛大に殺し合いをした後だ。
自分で思っているより、気分が高まっているに違いない。
冷え冷えとした銀の瞳。
見慣れたその妖狐の瞳の中に、雲雀恭弥という人間がわずかにちらついた。
prev /
next