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雲雀恭弥は白狐だ。
九尾の妖狐という、妖狐の中でも最上級にあたる存在である。
だが、彼は善狐ではない。
今でこそ、一応「神格持ち」、つまり神獣の括りだが、元は妖怪だ。

昔の荒れ様は酷かった。
白狐とされるその美しい白い毛並みが真っ赤になるまで殺戮に溺れた。麗しい見目を利用して、遊蕩にも耽った。
あまりに酷いその所業のせいで、大人しくさせるために神として祀られるほどに悪逆の限りを尽くした。
今とて、その凶暴性は潰えていない。
これでもまだマシな方どころかだいぶ落ち着いているのだということは、おそらく知らない方が幸せだろう。

そんな妖狐の雲雀は、当たり前のように妖力が桁違いで、そこいらの妖怪、あまつさえ神でも敵わないほどである。
まさに、向かうところ敵なし。一騎当千。百戦錬磨。古今無双。

だが、一人だけ。雲雀と対等に戦えるものがいた。
彼の名は、六道骸といった。

彼は、蛇の神である。水を司る、いわゆる水神だ。もしかすると、蛇というより蛟に近いかもしれない。
現在は過疎化のため彼を祭る神社も廃れかけているが、れっきとした神の一員だ。
分類としては、そこまで巨大な神力を持つ括りではないというのに、彼の神力は雲雀と拮抗していた。
雲雀と違い、変化を解いても、髪が伸びる程度でそこまで外見に変化はないが、纏う空気はがらりと変わる。

ちなみに、二人の出会いは千年単位で昔に遡る。
当時、絶好調に荒れ放題だった雲雀が骸の祀られる神社のある区域、つまり骸の領域に侵入したことから話が始まる。
好き放題している噂の妖怪と、神聖なる蛇神。
ついでに言えば、妖狐である故に狐火を得意とする雲雀と、水神故に水を好む骸。
合わない要素がこれでもかというほど揃っている。
…ここに、千年続く因縁が始まった。

後に神格持ちになるとはいえ、当時の雲雀はただの妖怪。神である骸は到底黙ってはいない。
とりあえず追い出そうと仕掛けたのだが、相手が悪かった。
同時に雲雀も、侵入した先が悪かった。
一ヶ月近く戦闘を続けても決着がつかない、これでは双方共に無駄に妖力神力を消費するだけだと冷静になった頭ではわかるのだが、当時はそこまで頭が回らなかった。
ひたすら戦って戦って戦い続け、苛烈な戦いは、二人が殺し合っていると聞きつけ寝首を掻こうとした馬鹿な妖怪の乱入によって一時休戦となる。

そして、現在にまで至るのだった。
これまで何度も何度も戦ったが、未だ決着はついていない。
さすがに昔ほど短気ではなくなったので、顔を合わせれば即戦闘とまではいかないが、淡々と皮肉嫌味冷笑の応酬は日常茶飯事となる。

奇しくもこの日、久しぶりに二人は顔を合わせてしまうこととなる。




「なんだ、君、とっくに烏にでも食べられたと思ってたよ」
「それはこちらの台詞です。てっきり、猟師などに狩り殺されているかと」
「はっ、馬鹿じゃない?妖狐の僕が、人間如きに殺されるわけないだろう」
「それを言うなら、僕だって蛇神ですよ。烏如きに遅れをとるわけがない…ああ、そんなこともわからなくなってしまったんですね、狐はこれだからいけない」
「少なくとも、蛇より脳ミソは詰まってると思うけどね。嗚呼、ごめん。君にはそもそも脳ミソもなかったね。鳥に食べられたんでしょ?」
「言ってなさい、化け狐が」
「ほざけ、薄汚い蛇のくせに」


火花が散る、なんてものじゃない。
二人の後ろに、ブリザードが吹き荒れていた。

普段と変わらない容姿…だが、未来で会ったときのように髪は長く、着物に身を包んだ骸と、先ほど見た白狐の姿に戻った雲雀とが、人間の姿の時の仲の悪さが可愛く思えるほどの冷たい空気で言い合いをしている。

何コレ、この二人ここまで仲が悪かったのか。


そそくさと部屋の隅に避難する三人になど目もくれず、怖ろしい口論はさらに激化していく。
俺達、いつ帰れるんだろう。
そんな疑問は、流れ込んでくる夜の風とともに綺麗に流された。




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