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「恭弥、ただいま。ちゃんといい子に……」

「おかえりなさい、兄さん。ご飯にする?お風呂にする?それともぼ…」

「何してるの……」


スースーするスカートに我慢しながら、がチャリと開いた扉から兄が現れると恭弥は咄嗟に演技をかました。
なのに、兄ときたらそれはそれは…呆気に取られたような顔をして、あろうことか恭弥の決め台詞を止めてしまったのだ。

予想外の事に恭弥は動揺するばかりで、咄嗟に言葉が出てこない。
そんな恭弥に何かを察したのか、恭は小さく溜め息を吐くと力無く落ちた腕を掴んでリビングへと引っ張っていった。





















「……で、君は一人で何をしてるわけ?」

「………」


まるで説教でも受けているような光景。
シュンと項垂れる恭弥は、丸めた手を膝に乗せてそれをきゅっと握り締める。
そして同じく目の前で正座をする恭は、若干呆れを含んだ声音でそう問うた。



「君はいつからコスプレマニアになったの。……そんなに女の子の格好がしたかった?…」

「っ、違う…!」

「じゃあ、どうしてあれだけ嫌がった服を着てるの」

「そ…れは……」


勿論、言えるわけがない。
重い口を閉ざしてしまった恭弥に一つ溜息を吐いた。
その兄の吐息に、ああ落胆させてしまったと俯いた顔のまま瞳にじわりと涙を溜める。
嫌われてしまったかもしれない、こんな大胆な真似をして引かれてしまったかもしれない。
様々な負の感情が沸々と湧き出て、恭弥の心をチクチクと痛めていく。



「そんなに…、僕とシたかった?」


いつの間に傍へ来ていたのか、耳元で甘く囁かれた言葉に思わず肩を跳ねさせた。



「そんなんじゃ…」


そう言って、慌てて瞼を擦る恭弥。
そんな腕を優しく解いて、恭はその額に口付けた。



「…相変わらず、お前は嘘が下手くそだね」


くすりと小さく笑われて、そんな兄の表情に瞳から溢れる雫が止まるわけがなくて。
仕方ない子だね、なんていつもの台詞を吐かれて、大好きな甘い口付けを受け入れた。

まるであの突き刺す痛みが嘘のように、傷口を舐められるような錯覚に陥りながら暖かな舌を内へ招き入れる。
久しぶりのその感覚と感触に、恭弥は背中に腕を回して縋り付いた。



「ん、…うっ」


「そんなに僕が欲しい?ここもさぞかし溜まってるのかな…?」


なんて、意地悪い台詞を吐かれて甘く自身を撫でられれば、それこそ媚薬の如く身体は跳ねる。
触らないでとも嫌だとも言わずに、恭弥はただ大好きな兄へ縋り付いた。
それはまさに、好きにしてと言われているようで…。





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