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「恭弥、何時も言ってるけど火の…」

「火の扱いには気をつけろ。それから施錠もきちんとして、知っている奴だろうと必ず確認してから玄関を開ける事……だろ?」

「…ああ、うん。よくわかってるね」

「当たり前だろ。そんな年じゃないのに、毎回休みの日になると何時も何時も懲りもせずに…」

「恭弥。じゃあ、僕は仕事に行ってくるから。ちゃんと留守番してるんだよ」


会話をしている最中も何処か忙しない兄、恭。
いってきますと玄関を出ていく彼の姿を、弟である恭弥はただ黙って見送るしかなかった。

土曜日の朝は、何時もこんな感じだ。
平日も朝から働いているし、会社でもそれなりの立場だから悠長にのんびりと休日を過ごせる訳が無くて。
日曜日はせっかくのお休みだというのに、恭は朝から仕事の書類やら何やらを床に散らせてせっせとパソコンのキーを押しているのだ。
だから、最近はまともに恭と甘い時間を過ごす事すらも出来ない状況。

実を言うと、恭と恭弥は血の繋がった兄弟ながらも歴とした恋人同士である。
禁断の恋だとかなんだとか、そんな事を気にする暇も無くいつの間にか互いに互いを想い合っていた。
両親がいないせいか家の中だろうと堂々と甘えられるし、世間一般的に言われるイチャイチャも出来るという訳だ。

ただ、最近身体を重ねる回数が極端に減ってしまい、正直自慰すらも自主的に出来ない恭弥からしてみれば、年頃の少年には色々とキツいものがある。
あの快感を知ってしまった以上、月単位で禁欲状態にさせられている恭弥の身体は本人が思っている以上に辛いはず。

パタンと閉じた玄関の扉に背を向けて、恭弥はリビングへと足を運んだ。



「……つまらないな…」


なんて、無造作に椅子へ腰掛けると恭弥は大きな溜め息を吐いた。
兄を見送る為にと中断させた朝食が、まだ目の前に半分程残っている。
けれど、そんな物を口に運ぶ気分ではない。
今はただ、どうしたら兄がその気になってくれるのかと、幼いながらもその稚拙な頭で懸命に思考を巡らせた。



「兄さんの好きなもの……」


簡潔に言えば自分が誘いを掛ければいいのだが、当然、セックスをしようなんて直球ストレートな発言が恭弥に出来るわけもない。
ならばと、少し回りくどいやり方ながらも、兄の気を惹ける事を頭に思い浮かべた。

確か、2月の22日に猫の日だかなんだか言って、強引に猫耳をくっ付けられた記憶がある。
それを見た恭は酷く嬉しそうに笑っていたような。
兄はコスプレが好きなのだろうか…。

いやいや、流石にそこまでは…と小さく首を横に振る恭弥だが、ふと頭を止めて脳内に兄の姿を思い浮かべてみた。
その兄に花魁の着物を着せてみると、素晴らしく似合うではないか。
ならば、袴も当然似合うに決まっている。
それに、もしかしなくともドレスも似合ってしまうのではないだろうかと、恭弥は時間も忘れてひたすらに悶々と妄想を始めた。



「……なんだったかな……エプロンの事…、なんか言ってた気がするけど…」


昼夜を問わず一日働き盛りの恭には、決まって恭弥が朝食と夕飯を作っていた。
勿論、休みの時は昼も。

そして何時ものように学校から帰ってきて、夕飯の準備をしていた所に珍しく早く恭が帰ってきた日があるのだが。
着々と料理を仕上げていく恭弥を目の前に、着用しているエプロンをぴらりと捲りながら何かを呟いた気がする。

それはそれは、もう恥ずかしい事だったのは確かだ。
真っ赤になって動揺する自分に、恭は冗談だと告げた。
半笑いで。



「………」


どうしてもそれが思い出せない恭弥は、仕方ないとその事柄を頭から捨てた。
そして、兄が酷く嬉しそうに自分を抱いたあの格好を。
セーラー服でも着てやろうではないかと結論に至った訳である。

普段から何かと服を着せたがる恭は、絶体にコスプレの性癖がある筈だ。
そんな恭に、おかえりなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも…なんてお決まりの台詞を吐けばきっとイチコロ。
しかも、それがセーラー服を着た愛しい弟で、しかも普段では見せない物欲しそうな眼差しを向けてしまえば、もうこちらのものだ。



「……正直嫌だけど…」


恭に構ってもらえないのはもっと嫌だから。

だから、自分の矜持も羞恥も捨てて今夜は待ち伏せをしてやろうと決めたのだ。





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