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「さて…セレネ、例の件だけど、」
「バッチリよ。はい、これ…確かに、こないだ言ってた男が来たわよ」


部屋に入るなり、雲龍は本題へと話を移す。
曲がりなりにも"そういう行為"が目的の部屋であるというのに、二人の間にそういった空気は微塵も漂っていなかった。
セレネは密着させていた身体を離し、部屋の引き出しから小さく折りたたまれた紙を取り出し、雲龍に渡す。
そして、アジア系の男の写った写真を見せ、彼が受けとった紙に書いてある事項を一つずつ説明していく。


「彼が来たのは、ちょうど二日前ね。
彼はここで一番人気の女を、かなりの高額で買ったわ…つまり、アタシね。
名乗った名前はケイン・ウェーバー…これは多分偽名ね、雲龍の言ってた名前とは違うから。
護衛は二人、両方二丁の拳銃を所持してた。
彼の口ぶりからして、おそらく高額でアタシを買ったのは見栄よ。
それから…彼は一週間後、デカいビジネスが始まるって言ってたわ。
アタシの知ってる情報はこれだけよ」

「……上出来だ、これで先手が打てる」



にやり、と笑った雲龍がセレネに向かって何かを投げる。

「今日の"プレゼント"だよ」
「ふふ!ありがと…雲龍は派手な"遊び方"するから、好きよ!」


値の張りそうなネックレスを手にして、セレネが笑う。
それは、プレゼントという名の情報代。
女遊びという名の、カモフラージュ。


「雲龍が来た日は楽だからいいわぁ…何にもしないから、ぐっすり眠れるもの。連日男の相手してると、もう疲れちゃって疲れちゃって…これで下手くそなのが来た日には、もう最悪よね」
「大変そうだね、ナンバーワンは」
「ホントよ!こんなとこにイイ男は滅多に来ないし、汚い親父ばっかり。もう、やんなっちゃう!」
「…僕は抱かないよ」
「あら、つれないのねぇ…こーんなイイ女とベッドを共に出来るっていうのに」
「玩具にされるのにはもううんざりなんだよ」
「ふぅん…アタシに遊ばれそうって、怖いんだ?」
「タフな女ほど怖いものはないさ」
「そういう正直なとこ、アタシ好きよ」


セレネの誘いをさらりと交わし、欠伸をしてベッドへと潜り込む。
この部屋には当たり前だが二つ目のベッドも、ましてやソファーもなく、必然的に同衾となるのだが、特に気にした様子もなく、上のシャツだけを脱いで早々に睡眠の体勢に入った。
それに名残惜しげにしながらも、セレネもまた隣に寝転ぶ。

そうして、この店の中の一室としてはありえないほどに健全に、夜は更けていった。




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