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彼の元を訪れたのはほんの気紛れだった。
まつりごとが好きな我らがボス(…とは言っても、自分はたいしてボスとは認識していなが)、沢田綱吉が年越しパーティなどと称した守護者を巻き込んだ書類ボイコットを行い、自分も強制的にそれに参加させられていたのだ。
どんちゃん騒ぎの会場と化したボンゴレのパーティ会場に愛しい恋人の姿がないのに気付き、大方この騒がしい、彼の言うとこの群れとやらから逃げ出したのだろうと当たりを付け、それならば自分もここにいる意味はないとばかりにこっそりと会場から抜け出したのだった。


楽しげな笑い声を背に、冷たい風の吹き抜ける廊下を一人歩く。
彼の纏う独特の冷たい空気に似た、冬の冷気は嫌いではない。
闇の中、独り凛と佇む月を見上げながら自室へと戻ろうとするが、その月を雲が隠してしまった瞬間…なぜかどうしようもなく、彼に会いたくなったのだ。
歩いてきた暗闇を振り返る。
当たり前のように、そこには誰の気配もなかった。
もう一度空を見上げてから、骸は踵を返して風紀財団のアジトへと歩を進めたのだった。


ハッチを潜ると、そこは別世界である。
ただ永遠と続く厳格な雰囲気を漂わせる純和風の廊下を慣れた足取りで歩いていき、しばらくして足を止める。
無言で襖を開け、中に入ってまた襖を閉める。
そこは、骸がここに来た際に着物に着替える為に雲雀が与えた部屋である。
少し狭いが、それでも着替えるだけと考えるならば十分な広さを持っている。
着ていたスーツを脱いで、ハンガーにかける。
並べられた幾つもの着物を眺めていると、一番端に、見慣れない着物があることに気付いた。
それは、深い藍色と翡翠色の落ち着いた色合いでありながら、はっとするほど目を引く、品のよいものである。
この間訪れた時にはなかった…ということは、どうやら新品らしい。
そう思い、迷うことなくその着物を手に取った。
すばやくそれに着替えて、また廊下に出た。
先ほどと同じく、また長い廊下を歩いてゆく。
しばらく歩を進めると、再び骸は足を止めた。
今度は、その襖に向かって静かに声をかける。


「…恭弥君、入りますよ」


返事は、ない。
訝しげに首を傾げるが、耳を澄ますと、中から僅かな衣擦れの音と、水音が聞こえた。
その音に、この屋敷の主がいることを確信した骸は、少し安堵してゆっくりと襖を開けた。


「恭弥君…いるなら、返事くらいして下さいよ」


やれやれ、と呟きながら、縁側に腰掛けている雲雀に近寄って、隣に腰を下ろす。
雲雀は、いつもの黒の着流しに深い紺の羽織を引っ掛けて、酒を煽っていた。
一度骸に視線はやったものの、すぐにその視線は闇夜に煌煌と浮かぶ月に戻された。
骸は、それに別段気を悪くした様子もなく、使われていなかった御猪口を手にとって、雲雀に差し出した。
それに気付いた雲雀が、その御猪口に酒を注ぐ。
ゆらゆらと揺らめく御猪口の水面に月が移り、次いで骸が映し出された。
ぱしゃり、と池の鯉が跳ねて、水面に波紋を呼ぶ。
何者も介入しない、二人だけの世界。
雲雀と骸は、ただ黙って酒を飲んでいた。
遠くに除夜の鐘が響いている。
鼓膜を震わせるその音に、骸はため息を漏らし、雲雀に向き直った。


「恭弥君、」
「……なに」
「今年一年、ありがとうございました。来年もよろしくお願いしますね」


月の光に照らされて、骸の美貌がより一層増している。
それを見つめて、雲雀は小さく笑った。


「……こっちこそ、」


そうしてまた、静かな夜が更けていく。







(あ、年が明けましたね)
(みたいだね、じゃあ…)
(はい?って何押し倒してるんですか!)
(姫始め、)


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