BL | ナノ




気味の悪い子供だと生まれた時から言われ続けていた。
何をしても、どんなことになっても、何をされても、濁らない色相。
両親はそんな自分を見て、なんて心が綺麗で純粋な子なのだろうと笑った。

中学に上がる前、そんな両親が死んだ。
交通事故だった。
泣いた、これまでにないほどに。泣いて、泣いて、泣いて。
心の中は、運転ミスで両親を轢き殺してくれた潜在犯に対する恨みでいっぱいになった。

「ごめん、母さん、父さん…僕のサイコパス、きっと濁ったよ」

綺麗だと褒めてくれたサイコパス、透明な色相。
こんなにどろどろの心では、さぞかし色相は濁っているに違いない。
そう思って、泣きながら確かめた、その色相は。

……嫌味なくらい、あの日と変わらない綺麗な色をしていた。






「聞いた?槙島さんところの子供の話」
「ええ、両親が死んでも色相がクリアなままだったんでしょ?」
「気持ち悪い子ね…あの子には心がないのかしら」

繰り返される嫌味に皮肉に、侮蔑の視線。
あれだけの出来事が起こってもなお変わらない色相に、誰も彼もが嫌悪を示した。
結局引き取り手が見つからず、両親の古い友人の家に預けられたが、そこでも対応はさほど変わらなかった。
必要な用事以外自分に寄り付こうとはせず、腫れ物のような扱い。
もう嫌だ、どうして自分の色相は濁らないのだろう。
いっそ家出でもしてしまおうか。世に聞く犯罪集団の仲間にでもなってしまえば、今度こそ濁ることが出来るんじゃないか、そんなことまで考え出したある日。
不意に聞いた義理の両親の会話に、彼の存在を知った。


「全く…どうして家には気味の悪い子ばかり揃うのかしら」
「全くだ、恭弥といいあの聖護といい…」
「恭弥は色相がぐちゃぐちゃだし、聖護はずっと真っ白よ?気味悪いったらないわ」


恭弥。
そういえば、この家には一人、息子がいると聞いたことがある。
一度もあったことがないし、この家では不用意に出歩かないから、今の今まで忘れていた。
会ってみたい。その彼に。
そう思ったら、不思議と身体を動き出していた。
彼らが出払った隙を狙って、広い家の中を散策する。三階まである家を歩き回って、ようやく見つけた。一番上の奥の部屋。厳重な鍵がかかっていることから、閉じ込められているんだろうか。
中からは決して開かないだろうが、外からならたやすく開けることが出来る。
傍にあった鍵を使って開錠し、恐る恐る扉を開けた。


「…誰?」


そこにいたのは、自分よりもいくらか幼い子供だった。
眠っていたのかぼんやりとした瞳をこちらに向け、大きく、硝子玉のような瞳が自分を見上げていた。
(…綺麗)
正直に、そう思う。真っ白な自分とは違い、真っ黒なその子供は酷く愛らしい容姿をしていた。
本当に、こんな子供が彼らの言う"気味悪い子供"なのだろうか。


「あ…僕は、槙島聖護、っていうんだ。一ヶ月くらい前に、ここに引き取られて…」
「ふぅん…僕は、雲雀恭弥。ここの子供だけど、彼らはそんなこと微塵も思ってないと思うよ」


だから、君を引き取ったんでしょ?
そう続ける雲雀に、慌てて弁明した。自分はそうではないと。
引き取り手がなくここに来ただけで、自分も、気味悪がられているのだと。
真っ白な色相のことも、引き取られた経緯も、気付けば自分から話していた。
それと同時に、雲雀も自分のことを話す。
真っ白だったり真っ黒だったりする、奇妙な色相のことを。
完全に真っ黒であれば潜在犯として隔離されるのだが、彼はそうではなかった。
ただでさえ大きな、それなりに名のある家の子供である。
そういった汚点を世に晒すわけにはいかない。真っ黒なだけではないのだから、と、両親は彼を隠すことで自分達の保身に走ったのだった。
ほとんど外に出ることもなく、ここに閉じ込められている。

同じ、だね。
うん、同じだ。

世間から隔離された存在。
どちらともなく笑い合った二人は、そのままその部屋で遊び始めた。
聖護の話す外の世界の話を、雲雀は興味深そうに聞き、同時に聖護の知らない世界の話を雲雀が話した。
裕福な雲雀の両親は、彼を部屋に閉じ込める代わりに、彼の望むものは何でも買って与えていた。その中にあった書物に、聖護は酷く興味を引かれた。
紙の本など無いに等しいこの時代に、それは酷く希少なものだった。
聖護は雲雀の部屋に入り浸ることが多くなった。
端から見れば、仲睦まじい兄弟の交流であっただろう。
けれど、それはそんなに可愛らしいものではなかった。


二人が手引きした潜在犯が雲雀邸を襲い、雲雀と槙島が姿を眩ますのはこの二ヵ月後のことだった。

prev / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -