BL | ナノ




「あ、朱ちゃん」
「綱吉くん、今帰り?」
「うん、やっと溜まってた書類が終わったんだ」
「あはは…お疲れ」


公安局から数歩でた場所で、不意に出会った二人はそう笑って会話を交わす。
常守朱と、沢田綱吉。
二人は、所謂幼馴染という関係であった。
男女の幼馴染であれば、いずれ疎遠になっていってもおかしくはないのだが、二人は選考過程も偶然一致し、互いのその朗らかな性質ゆえ、性別を超えた友愛の念を抱いていた。
何の因果か就職先も同じになり、二十歳を超えた今でも付き合いが続いている。

最終考査にて非常に優秀な成績を出した朱と違い、綱吉のポイントは正直あまりよろしくない。
少なくとも、中央省庁に適正を出せるような成績ではなかったのだ。
それにも関わらず、彼は公安局に適正を出している。
友人達の間では、これが一番のミステリーだと噂されているし、綱吉自身も、どうして自分がここに適正を出せたのか首を捻っている。
シヴュラの間違いかと先生に再審査を薦められ、二度も審査し直したのだが、結果は変わらなかった。
綱吉は、公安局に適正があったのだ。

母子家庭である綱吉は、女手一つで自分を育ててくれた母親に酷く感謝しており、何とかして恩を報いたいと考えていた。
公安局の監視官といえば、エリート中のエリート。迷わず…ということはないが、他の適正のあった職業と比べれば選択の余地などない。
給料の差が倍どころではない。
こうして綱吉は、公安局監視官に就職した。

一方の朱は、最終考査で700を叩き出した優等生でもある。
中央省庁全てに適正を出した怖ろしい成績だ。
他に安全でエリート街道まっしぐらな就職先など腐るほどあったというのに、彼女も綱吉と同じく公安局を選んだ。
「自分達にしか出来ないことを見つけるため」
職業適性診断の際、厚生省公安局刑事課に適正を出したのは、学年でたった二人だけだった。綱吉と、朱。これは偶然の巡り合わせなのだろうか。
本当の人生を、自分の生きる意味を、見つけたいと思った。
そうして、朱もまた公安局に就職した。


二人は並んで帰路につく。
時折他愛ない会話を交えながら、のんびりと歩いていた。
不意に、綱吉が足を止める。
「…綱吉くん?」
訝しげに思った朱が口を開いた。
立ち止まった二人をおいて、人の波はそのまま流れる。
「…ううん、なんでもない」

立ち去る二人の反対側。
すれ違った、どこまでも黒い男が静かに口角を上げた。

prev / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -