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「お前が雲雀恭弥か?」
「ん?違うよ、お兄さん、俺は神威っていうんだ」


突然応接室の扉を開いた金髪の男に、神威は口の中に詰め込んだ食べ物を咀嚼しながら適当に返事を返す。
え?というような表情をした男は無視だ。
ちなみに、今の神威の格好は黒い学ラン…しかも長ランである。
校内を徘徊するのに、さすがにチャイナ服では目立ちすぎるということで、風紀委員室にあった制服を勝手に拝借してきたのだった。
長ランにしたのは、ただの好みである。
もちろん、並盛の正規の制服は学ランではなくブレザーであるので、長ランなど目立つことこの上ない。その上、神威の髪色も顔立ちも、酷く人目を引くものだった。おまけに、学ランを着るのは雲雀率いる風紀委員の面々のみである。
チャイナ服で徘徊するのと、どちらが目立っただろうか。考えても無駄な問いだった。
つまり、どっちもどっち。
神威は、いまや全校生徒に知られている。
とはいえ、そういった視線には慣れきっている神威は全く気にした様子もなく、愉しげに校内を歩き回って騒ぎを起こしている。

初日から、不良と揉め事を起こした。力加減が上手くいかず、全員病院送りにしてしまった。
次の日は、行く先々で道を空けられた。歩きやすくて快適だった。
三日目、珍妙な赤ん坊に話しかけられた。驚いて消火器をぺしゃんこにしてしまった。
四日目、体育の授業というものに参加してみた。バスケというゲームをしたが、ダンクをした衝撃でボールとゴールを粉砕してしまった。
五日目、ようやく力加減に慣れてきた。不良と喧嘩をしたが、骨を一本折るだけで済んだ。
六日目、成り行きで強盗を捕まえた。感謝状を…と言われたが、丁重にお断りした。
七日目。今現在。金髪の男が目の前にいる。





「…お前、指輪を見なかったか?というか、その雲雀恭弥って奴はいないのか?」
「指輪?指輪なら、さっき壊しちった。雲雀なら、今うちゅ…いや、遠出してるかな」
「こ、壊した!!?本気か!?」
「うん、真っ二つに」
「ええ!!?」

騒がしい男――ディーノというらしい――は、どうやら指輪を探しているらしかった。
だが残念なことに、その指輪は数十分前に神威が壊した。
床で何か光ってる?と、拾って手に取ってみれば、見事に真っ二つの謎の指輪だったのだ。
あちゃー、やっちった。
随分と軽い反省である。
物を壊すことが日常、むしろ壊すのが仕事レベルの神威は、それは自分が掴んだ際に割れたのだろうと当たりをつけた。
そして、それを執務机の上に放って、気にせず食事を始めたのだった。
それを聞き、ディーノは思わず脱力する。


「…いや、大丈夫だ。それはお前が壊したんじゃない、もとから半分なんだ」
「あり?そうなの?変わった指輪だネ」
「まぁな…。…ところで、雲雀はいないと言ったな?」
「そうだよ。しばらく帰らない」
「そうか…困ったな…」
「……ねぇ、お兄さん。それってもしかして、戦闘関連の用事?」
「は?あ、いや…」
「その用事、俺が引き受けてもいいよ」


最後の一口を食べきり、ぺろりと唇を舐める。
ぴん、と、半分の指輪…ハーフボンゴレリングを指で弾き、薄く目を開き、にたりと笑った。
…瞬間、思わず懐の銃に…そして、己の武器である鞭に手がいきそうになる。
背筋に嫌な汗が伝った。
ゆらゆらとアンテナのようなアホ毛が愉しげに揺れる。
即座に彼の力量も測れないほど、ディーノは弱くはなかった。



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