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あれから。
依然、恐ろしい殺し合いを繰り広げてくれている二羽の兎。さすがというべきか、どちらも全く譲らない。


神威と殺し合っている夜兎。彼は、雲雀だった。
以前殺し合った仲である夜兎の襲来に、阿伏兎は顔を引きつらせる。
これは、駄目だな。
早々に事態収拾を諦めた。あれは無理だ。鳳仙と神威が殺し合いをおっ始めた時に近い、立ち入れぬ強者と強者の、空間。
びりびりと肌を裂く殺気が心地いい。だが、同時に背筋が冷える。
あの時は自分の片腕と、云業という一人の夜兎の命と引き換えに何とかなったが、今回はそうもいかない。
まず第一に、自分の腕はあともう一本しかないし、そんなほいほいと同族を殺されても堪らない。
加えて、今戦っているのは若く力の有り余った二人。荒く力任せに打ち合うそこに入っていったが最後、ジ・エンド確定だ。
目の前をうろつく蝿を叩き潰す感覚で殺されるのが目に見えている。

神威の振りかざした拳が、音すら間に合わぬスピードで雲雀に打ち込まれる。
派手な音を立てて、雲雀が壁に吹き飛んだ。怪力揃いの夜兎のために、超合金で作られているはずの壁ががらがらと崩れていく。
煙の中から、ゆらりと黒い影が姿を現す。薄く浮かべた微笑みは、だがしかし殺意に彩られた瞳に柔らかさを掻き消されている。
と同時に、神威の身体が床へと叩き付けられた。雲雀の蹴りが襲う。
それに返すように打ち上げた神威の足が雲雀へと向かう。それを片手で受け止め、もう片手で拳を叩き込む。鮮血が舞った。





「…そこまで。二人とも、飯の時間だ」


互いが間合いのために飛び退いた隙を狙って、そう声を投げかける。
澄んだ蒼と黒の瞳が、阿伏兎に向けられた。
だがしかし、そこには既に殺気だった色はなく、彼の告げた「飯の時間だ」の言葉に、嬉々として輝いていた。

たびたび乱闘を起こしてくれる二人を最小限の被害で抑える方法。
それは、とりあえず満足するまで打ち合わせてやってから、タイミングを見計らってご飯で釣る。
単純明快。それで釣られてくれるのだから、何とも単純で可愛らしいものである。
被害を考えなければ。





「阿伏兎、おかわり」
「僕も」

そうして食堂まで引っ張ってきたのはいいが、これまたよく食べる。
今度は食堂が大ダメージを負うことになってしまった。
大食漢揃いの夜兎の中でも、神威は特によく食べる。恐ろしいほどによく食べる。
最高記録は、一ヶ月分の食料(夜兎用)を、わずか一週間足らずで食い潰したことであろうか。あの時の元老、提督の顎の外れた顔は今でもよく覚えている。
だが、雲雀もまた負けず劣らずの食いっぷりなのだ。
何もこんなところでまで争わなくてもいいと嘆きたいが、せっかく大人しくなっているのだから、いらぬ騒ぎは起こしたくない、その一心で「俺は石…俺は石…何も感じない…」と唱えて注文通りおかわりをよそってやる。茶碗に詰め込めるだけ詰め込んで。


「んぐ…はぁ、美味しい。このチキンは絶品だね」
「このビーフシチューも美味しいよ。あ、神威、そのハンバーグちょうだい」
「はい、じゃあ俺は、そのコロッケね」
「ん、」


凄まじいスピードで消化されていくテーブルに乾いた笑みを零して、厨房に「もっと急ピッチで作ってくれー…団長様が二人いるつもりでなー」と催促にいった阿伏兎は、もう何度目になるかわからない溜息を零す。
「団長が二人!?それは俺達だけじゃ無理ですー!!」だなんて泣き言が聞こえてきたことには、完無視を決め込んだ。
その気持ちはよくわかる。普段の二倍、いや、それ以上のスピードで料理が無くなっていくのは、見ていて本当に胃が痛い。

どこか似た黒いチャイナ服を着ている二人は、見た目だけなら華奢で可愛らしい、または綺麗な容貌をしているというのに、食事と戦闘の時とのギャップは何なのだろう。
これがいわゆる、ギャップ萌えというやつか。
そこまで考えて、一生それは理解したくないな、と、また深い溜息を零したのだった。

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