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「じゃ、そういうことだから。後はよろしく」


その日の夜。雲雀は普段の制服を脱ぎ捨てて、何処から出してきたのか、中華風の、いわゆるチャイナ服に着替えていた。
月明かりに照らされて、もとより白い肌が更に際立っている。
うっそうと細められた瞳は凪いでいて、それでもどこか獣染みた狂気が垣間見えていた。
服を着替え、夜兎の象徴である番傘を手に持ち、後ろに控えている草壁を振り返ることもなく窓から飛び降りた。
ちなみに、応接室は三階である。
普通の人間ならば、骨折は免れない高さであるが、雲雀は物音一つ立てずに着地し、そのまま歩き去ってしまう。
その姿を見届けてから、草壁は彼の飛び出した窓を閉め、机の上に残っている書類を見て大きな溜息をついた。


「…委員長、せめて血は拭いてから書類に触って下さい」


血塗れの書類にびびっていた以前の自分が懐かしい。
そう思ってしまった自分に対して、草壁はまた寂寥の溜息をついた。
自分があの人の下についたのはいつだっただろうか。
思い出せないほど昔ではなかったのに、今から考えると酷く懐かしいことのように思える。
この血はおそらく、どこかの天人か何かと殺り合ってきたのだろう。
雲雀が今さら何をしようと驚かない。

草壁も、実のところ天人であった。
夜兎ほどではないが、そこそこ戦える、戦闘民族のくくりに入れてもよいだろう種族の生まれで、彼はそこでとても優秀だった。
けれど。
負けた。雲雀に。
いくらその星で強くとも、彼は夜兎。それも最強の部類の。勝てるはずがなかった。
死ぬのは怖かったが、これでも戦闘民族の端くれ。彼ほどの猛者にやられるのならば、未練はない。そう腹を括って死を待ったが、その時、彼は草壁を殺さなかった。

それなりの強さだった。頭もいい。矜持もある。
そして何より、殺されるとわかっていても、決して雲雀から目を逸らさなかった。



「殺さないよ、面白そうだからね」

にこりとした笑みを浮かべて、告げられたあの日の言葉はよく覚えている。
それから彼に従うと決めた。





今頃彼は、宇宙に赤い花を咲かせているのだろうか。
美しいそのかんばせに、真っ赤な化粧を施して。

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