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「……」


さっきから、彼は一体何をしているのだろう。
後ろにこそこそと動く気配を感じて、雲雀はそう溜息を付いた。
最初は自分を狙う不良か何かかと思ったがそうでもないらしい。ならばいいかと放置していたが、しばらく歩いても離れる気配はなく、どうやらとことんまでつけてくるつもりらしかった。
視界の端に揺れる琥珀色。なんだか見覚えがあるな、と思っていたが、今思い出した。
そういえば、この間戦った…ような気がしなくもない、草食動物だった。
一体何の用なのだろう。
考えても他人の、しかも、弱い地球人の思考回路などわかるはずもなく、雲雀は早々に思考を放棄した。


雲雀恭弥は、夜兎と呼ばれる種族の一人だった。本来の名は「雲雀」である。
最強最悪の傭兵部族、夜兎。
姿形は人間と大差ないが、驚異的な戦闘能力を誇り、ただ血と殺戮を好む脅威の種族である。
戦を好むその性質ゆえ、現在では既に絶滅しかかっているのだが、そんなことは雲雀には関係なかった。
彼は、恐ろしく濃く夜兎の血を継いでいる。今では廃れた風習である「親殺し」というものに従って両親を殺し、戦場を求めて数多の星を彷徨ってきた。
色々な強敵と出会った。
たくさんの好敵手と戦い、殺し合ってきたが、やはりその中でも他の夜兎と殺し合う瞬間は最高だった。
血肉踊り殺意と狂気に満ちたその空間の中で、ただ互いの力だけを振るうその刹那は極上だ。何人も殺した。しかしまだ、足りない。
足りないのだ、癒えないのだ、この渇きが。
夜兎は戦場で生きる。酒だろうが女だろうが、この、狂わされそうな渇きを癒すことは出来ない。
きっと自分は、生涯戦いの中で生き、そしてそこで死んでゆくのだろう。
本望だ。
もっともっと戦わせて欲しい。もっと血を、もっと殺戮を、もっと強敵を!!


「・・・そういえば、最近彼に会ってないな」


ふと、空を見上げる。
忌々しい太陽が目を焼き焦がそうとしたが、それを愛用の番傘で遮った。
彼。今現在、雲雀が執心しているのは、二人いた。

一人は、六道骸という。
以前、気紛れで居座った並盛に攻撃を仕掛けてきた地球人だ。
実力的には、もちろん雲雀の方が上なのだが、彼には不思議なところがあった。先が楽しみ、とでも言えばいいのか。とにかく、こんな場所で死ぬようでは勿体無さすぎる、と思い、珍しく雲雀が殺さなかった男でもある。
時々戦うが、やはり面白い。
おそらく、雲雀がただの人間でないということにも気がついているのだろうが、彼自身も何か思うところがあったのか、特に誰に言うまでもなく、暗黙の秘密となっている。
だがしかし、たった今雲雀が口に出した"彼"は、骸ではない。

もう一人、雲雀のお気に入りに、神威という男がいた。
彼は雲雀と同じく夜兎であり、宇宙海賊「春雨」の幹部をしているらしい。
互いに、殺戮こそ全て。弱者は地に還るのみ。そんな似た価値観を有しているからなのか、出逢うたびに殺し合うという、仲良く…は見えないのだが、当人達からしてみれば、この上なく好待遇の存在らしい。
実力はほぼ互角。その時のコンディションによって多少は左右されるが、それでも、あまりに拮抗した実力であるだろう。

最近見かけていないな、というのは、神威のことである。
というのも、雲雀が「第二の地球」に腰を落ち着けたのが一年ほど前。
理由は簡単で、ふらふら彷徨うのもいいが、一度ゆっくり拠点を決めて動きたいという一念からだった。しばらくしたら、また放浪生活に戻るつもりだが、まぁ後一年くらいはここに残るつもりでいる。
最初のころはふらふらと宇宙に出てもいたから、まだばったりと出会うこともあったのだが、最近は面白い地球人を見つけてそちらに構っていたから、宇宙に行く機会も必然的に減っていた。

そろそろ溜まってきた。
ここにも面白いのはけっこういるが、やはり全力の殺戮は、夜兎同士が一番だ。
久しぶりに宇宙をぶらつこう。ばったりと出会うかもしれない。
そんなことを考えて、特に何も考えず、いつの間にかやってきていた高台の上から、飛び降りた。





…この時。
雲雀は、後ろをつけてきている綱吉のことなど、すっかり忘れていたのだった。

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