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「要するに、アッロードラは寂しかったのではないか?」応接室に戻った僕を迎えたのは、ジョットだった。夕日は沈みかけている。開け放された窓から差し込む暖かいオレンジ色の光は、綱吉の、そしてジョットの炎の色に酷似していた。「寂しい…僕が?」夕日に包まれるジョットは、どこか消えてしまいそうにさえ見えてくる。それが急激な不安となって僕の身体を襲い、二、三歩、彼に歩み寄った。「デーチモからの愛が実感できず、不安だったのではないか?」「…そうかも、しれないね」冷めてしまったのだと、そう思う。愛すだけの関係に疲れて、僕の心は無意識に逃げたのだ。


僕は、愛されたかった。両親を失って、欠けたものを埋めたかったのかもしれない。
愛というものが液体のようなものだとしたら、僕の中にある愛はとても量が少なくて、それをただ自愛のためだけに使っていたのだろう。他者に分け与えるには、その絶対量があまりに少なすぎた。だけど、綱吉と出会った。彼には、愛をあげたかった。自愛にのみ使っていたそれを、己を省みずに彼に与えていた。自分の心が乾いても、悲鳴を上げても。そしてその乾ききった心を、彼の愛で潤して欲しかったのだろう。
だけど、渇望したものは与えてもらえることはなくて。結局自分が可愛い僕は、彼を愛することを止めて、自分を守ったのだ。


「…アッロードラ」ジョットの声が、至近距離で聞こえる。何、と問いかけようとして顔を上げたところで、僕と彼の唇が重なった。「…何のつもり、」しばらくして、ゆっくりと顔を離したジョットに少しぶっきらぼうに問いかける。
拒絶しようという気は、何故か起こらなかった。「アッロードラ…オレは、ずっと見ていた」「…僕を?」「オレは、アッロードラが好きだ」真っ直ぐなその言葉は、僕の心を覆っていく。ついに彼から聞くことの出来なかった言葉をさらりと言われて、どうして自分はあんなにも躍起になって追い求めていたのだろう、そんな思いが浮き上がってくる。「ズルイことなのはわかってる…だが、オレはどうしてもアッロードラが欲しい」弱みに付け込んで、すまない。そう弱弱しく呟いたジョットを無意識に抱きしめていた。
愛というのは、一方的に与えるものではないのだと、初めて体感したようだった。


綱吉。声にならない声が、空気を振るわせる。僕はね、君に愛して欲しかっただけなんだよ。届かない最後の言葉を、ドア越しに彼が聞いているとは知らずに。


「…綱吉、愛してた、よ」


それは最早、過去形の愛情。
さようなら、大好きだった綱吉。一度でいいから、好きと聞きたかった。




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