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要するに僕は、自分で思っていたよりも愛されたがりだったのだろうと思う。
自分が相手を愛していればそれでいいなんてのはただの綺麗事で、愛しいと思えば思うほどにその見返りのように同じだけの愛情が欲しいと思うのは打算的ではあれど人間の本質なのではないだろうか。
少なくとも僕はそうで、むしろ自分以上の愛が欲しいとすら思う。僕以上に愛してくれればいいのに。そうしたら、僕はその愛をさらに倍にして返してあげよう。
けれども、自分に与えられるその愛がなければ、返しようがないじゃないか。
一方的に、ただ慈愛のように愛情を注ぐには、僕はまだ完成されきっていないただの子供なのだった。


沢田綱吉、という子供がいる。一応、僕の恋人だ。
僕も彼も互いに男同士という現状ではあれど、別に無理強いしたわけでも恐怖で頷かせたわけでもなんでもなく、双方の同意に基づいて付き合っている。
僕は彼を愛していた。
小動物のように庇護欲をそそられるその子供に対してだけはなるべく優しく接しようと心がけているし、彼が仲間がいないと生きていけない弱い生き物だということもきちんと理解しているから、別にその交友関係をどうこう言おうだなんてつもりは一切なかった。
だけど、ここ最近はあんまりではないか。

久しぶりに仕事がないからどこかに行こうと誘ってみれば、その日は友達と遊びに行くから無理だと断られた。
これは別にいい。友人と遊ぶのは一般的には重要なことなのだから、あまり羽目を外し過ぎないようにねと送り出した。
それからまた仕事に追われる日が続いた。休みがないなら作ればいいのだと気付いて彼の予定に空きがある日を何とか空けようと思って聞いてみた。
そこに合わせて都合をつければ、今度はドタキャン。彼の取り巻き共が騒ぎを起こしたらしい。仕方なく、空いた時間に最近暇のなかった趣味の時間を取った。バイクのメンテナンスには思ったより時間がかかるのである。
休みに互いの都合を合わせるのは不可能に近いのではないかと懸念したから、放課後はどうだと聞いてみた。今度は、うるさい取り巻きに強制連行されるから難しいと言う。
ここまで言われてしまえば、僕はどうしようもないじゃないか。
そうこうしているうちに、何とか彼と過ごそうと思って無理矢理時間を空けたツケが回ってきて、しばらく仕事に缶詰になってしまった。
その時に彼がやんわりと予定を聞いてきたが、もうこれ以上時間を空けるのは無理だった。彼は至極残念そうな顔をしていた。


強引に仕事を放棄していたせいか中々書類は片付かない。時刻は既に下校時刻を回っていた。数時間黙々と椅子に座っていたからか、身体が固まって仕方ない。少し休憩するかとコーヒーを入れて、空気の入れ替えのために窓を開ける。冷たい風は心地よかった。そうしてのんびりと過ごしていると、不意にドア付近に気配を感じる。「また来たの、貴方」すっかり葉を落としてしまった木々を見つめながら、最近よくここに訪問してくるようになった人物に向けて声を投げる。彼は、完全に実体化したことを確かめながら、嬉しそうに破顔して僕の元に歩み寄った。「ヴォンジョルノ、アッロードラ」彼の名はジョットといった。あの子と同じ、ボンゴレのボスで、そこの創立者。指輪が完全体に戻ったことで、実体化できるようになったらしい。彼は度々、この応接室に顔を見せにきていた。僕と同じ雲の守護者…僕はそんなものになったつもりはない…であるアラウディとやらも、そっくりの顔や性格が物珍しいのかよく訪れていたが、彼の訪問回数は別格だった。彼は僕をいたく気に入っているらしかった。


「調子はどうだ?」
「見ての通り、仕事漬けだよ、ワーカーホリックになりそうだ」
「そういうところは、本当にアラウディそっくりだな。奴も昔、似たようなことを呟いていたぞ」
「…あまり嬉しくない事実だね」
「そうか?」


ここ最近は、あの子といるより、ジョットといる方が多いのではないかとすら思う。彼は決まって、僕が休憩中の頃を見計らってやってきていた。そして、そろそろ仕事を再開しようかという時になると、「では、また来るからな」と言い残して、そのままさっさと消えてしまう。潔すぎて、ぽかんとなるほどだ。そこに若干の寂しさを覚えながらも、彼は言った通り、必ずまたやってくる。それを少し、楽しみにしている自分がいるのだ。あの子は、こんな風に来てくれはしないから。いつでも来ていいよ、と言っても、大抵呼びにいくまで来たことはない。どこか新鮮な気分だった。


ジョットがやってきて、五分ほどした時だろうか。「ちょ…骸、何すんだよ!」「クフフ、綱吉君が一人でいましたので。今日は、周りの取り巻きはいないのですか?」そんな声が聞こえてきた。どうやら、窓を空けていたせいで外からの声が聞こえてくるらしい。少し焦って窓から飛び降りる。その様子を、ジョットが面白くなさそうに見つめていたことに、僕は気付かなかった。




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