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六道骸は驚愕していた。
あの雲雀が、あの雲雀恭弥が。自分と対等に渡り合ってくる獰猛で猟奇的でそのくせ知的という両極端な性質をもったあの美しい男が、たった一人の少女の相手に心底疲れ果てているらしい。
そんな無様な姿は是非とも拝んでやらねばとスキップしながら並盛へ来訪してあらびっくり。
その少女とは、自分が面白半分でけしかけた沢田綱吉という珍妙な小動物であった。
百聞は一見にしかず、ということで一日彼を観察してみたのだが、なるほど、確かにあれの相手は疲れるだろう。
凄いの一言に尽きる。なんせ毎時間だ、とにかく休み時間のたびに応接室に駆け込んでは斬新過ぎる告白モドキをかましてゆく。
それの元ネタが自分の庇護する可愛いクロームだと知ったときには思わず天を仰いでいた。
とにかく、雲雀恭弥が不憫すぎる。
殴っても殴ってもけろりとしてまた告白しにくるとかなにそれ怖い。
そう、なけなしの良心ただしチロルチョコサイズを発揮させた愉快犯こと六道骸は、珍しく純粋な善意により、雲雀の快適な時間を守ってやろうと思ったのだった。






「骸―――!!」
「おやボンゴレ、どうしましたか?」
「どうしましたか、じゃない!っていうか、わたしをボンゴレって呼ばないでって言ってるじゃない!」
「おやおや、これは失礼しました」
「ちっとも悪いと思ってないよその言い方!ってそうじゃなくて!なんなのこれ、なんで応接室開けたら教室帰ってきてるの―――!?」


昼休み。
さぁ今回も張り切って雲雀に好きだと叫びにいこうと駆け込んでいった綱吉だったが、扉を開け放った先はなぜか自分の教室。
これはどういうことだとぽかんとしていたが、視界の端に見知ったパイナップル頭をとらえて陸上部も真っ青な速さで骸を捕獲した。
こんな芸当が出来るのは、認めたくはないが幻術の超エキスパートである骸しかいない、そう綱吉は結論付けていた。
そしてその仮説は正しく、目の前で骸は必死に笑いを堪えている。


「ふざけないでよ!わたし、早く雲雀さんに会いにいきたいんだから!」
「行ったらいいじゃないですか」
「いけないから言ってるの!どうせ骸の仕業でしょ!?」
「言いがかりとは酷いですねぇ…」
「むーかーつーくー!!」


廊下のど真ん中でぎゃーぎゃーと口喧嘩を繰り広げているが、骸は見事綱吉の足止めに成功している。
これは成功ですかねぇ…?と内心ほくそ笑んでいたのだが…。
事態は必ずしも、いい方にばかり転んでいなかった。








「なんじゃこりゃぁあああああ!!!!」
「先生!自分の教室に帰れません!!」
「ここどこ!?なんで俺人体模型と並んで座ってんの!?」
「いってぇええ!!!なんで校長の銅像の上に落ちるんだよ!!」
「先生!教室のドアを開けたらうんこ漏れそうな山田くんが!」
「トイレ!トイレに行かせてくれぇえええ!!!」
「購買どこだぁあああああ!!!!」


あちらこちらで聞こえる阿鼻叫喚。
超直感という最早反則な特殊能力を持つ綱吉に対抗するため、全力で幻術をフル展開したのが悪かった。
標的である綱吉だけでなく、全く関係のない生徒までが幻術の被害に遭っていた。
行きたい場所にいけず、でたらめに繋がった迷路と化してしまった学校で、唯一頼れるのはただ一人。


「「風紀委員長―――!!助けて下さい!!」」





苦情、被害届の行き着く先は、応接室ただ一つ。
膨大な量の書類に埋もれ、止まない救助依頼を訴え続ける携帯を壁に叩きつけたくなる衝動を必死に抑えながら、一言ぼそりと呟いた。


「…帰ろうかな」


雲雀の受難はまだまだ続く。






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