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雲雀恭弥という人間は、沢田綱吉にとってよくも悪くも絶対だった。
綱吉の美の基準は言わずもがな雲雀であったし、最高でも雲雀、最低でも雲雀なので、その他のことに心を動かすといったことはほとんどなかったといっても過言ではないだろう。
だが、そこに恋愛感情があったかと言われると、綱吉はおそらくNO、と答えるに違いない。
所謂前世といった世界での自分は何の呪いか生涯を男装して過ごすという悲しき宿命を背負っていたわけで。彼のことは、異性というより、憧れと畏怖を伴った感情で接していたのではないだろうか。
それでも、好きか嫌いかの二択を問われれば間違いなく好きだと胸を張って言える。雲雀が、好きだ。自分を見てくれた雲雀が好きだ。自分の事情を汲んで普段は男として扱ってくれたが、そこには、周りにわからない程度の女性に対する扱いも含まれていたことは、自分が一番よく知っている。
些細なことで話が出来たのが嬉しかった。帰り道、偶然彼を見かけると、どんなことがあっても、その日は幸せな一日となる。真っ直ぐな、水晶玉のような瞳が好きだ。その綺麗な瞳に、自分を映して欲しい。「沢田」と、自分の名を紡ぐ声が好きだ。けれど、名前で呼んで欲しい。出来ることなら、そこに、ほんの少しでいいから甘やかな色を滲ませて欲しい。
この感情を何と呼ぶのか、生涯女として生きることの出来なかった綱吉は知らなかった。否、知ることを許されなかった。
本当は、無意識ながらわかっていたのだ。


自分は、雲雀を愛していると。


だから今、自分の目の前にその彼がいることが未だに信じられない。
傍にいたかった。名前を呼んで欲しかった。彼のテリトリーに入ることを、許されたかった。
もういいと、そう言ってくれた。
女に戻っていいよ、と。
誰にも言われなかった言葉を言ってもらえた。大好きな彼に。
本当は、自分だって、可愛い服を着たかった。
髪だって、もっと伸ばして、可愛く結んだりしてみたかった。
ズボンばかりじゃなくて、スカートだって履きたかった。
普通の女の子のように、好きな人にアピールしたかった。
貴方に、好きになってもらえるように、頑張りたかった。
それは、全部許されなかったから。


見苦しくない程度にお化粧をして、可愛い服を着て、鞄を持って、貴方とデートをする。
少し嫌そうな顔をする貴方の腕を引っ張ってケーキ屋に入って、思う存分ケーキを食べて。前世では入ることの出来なかったファンシーな小物の店に堂々と入る。
色違いのストラップを買って、それを付けて。
帰り間際に、貴方がいつの間に買ったのか、シュシュをくれた。
長い髪を梳いて、束ねるのに使いな、と笑って。


幸せ、と、笑ったら。
貴方も笑ってくれた。

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