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雲雀恭弥は天使である。それはもちろん、彼を愛してやまない女子生徒、沢田都奈の主観も大々的に入ってはいるのだが、残念なことに、これはれっきとした事実なのだった。雲雀恭弥は、ウリエルという名のある大天使であった。
ところで、天使と言われれば、ほとんどの並中生は口を揃えて「沢田都奈」の名前を出すだろう。彼女は非常に可愛らしい女子生徒であった。
沢田都奈はとても可愛い。それはその容姿だけに留まらず、その正確にも言えることだった。ふわふわとした琥珀色の髪は太陽の光に反射してキラキラと煌めいている。白く透き通った肌は透けるように美しくて、そのまろやかな頬を桜色に染めて微笑む様はまさに天使。
その上、彼女はとても優しいのだ。困った人を放っておけない底なしの御人好しであり、いつも優しげに笑って力を貸してくれる。純粋無垢なその微笑みに、何人の男子生徒が陥落したことだろうか。
そのくせ恋愛事には非常に疎く、たくさんの男子生徒からの好意を一身に受けているのに、気付きもしない。まさに、無自覚天然子悪魔。愛されるために生まれてきた少女である。


そんな彼女には、ある重大な秘密があった。
「…うふふ、」
誰もいない教室で、クラスメイト達に向けていた儚げな微笑とは全く違う、艶めいた顔をする都奈。その表情は、今までのものとは似ても似つかない。きちんと止めていた制服のボタンを、胸の見えるぎりぎりの位置まで広げて微笑むその姿は、妖艶な女の顔になっていた。「あーん、ウリエル様、今日も素敵…」うっとりとした表情で、うきうきと教室から出て行く。向かう先は、恐怖の象徴、応接室。鬼門とも呼ばれるその部屋に、彼女は躊躇うことなく入っていった。


「ウリエル様ぁ…います?」
「……また来たの、沢田都奈…いや、リリム」
「うふふーっ!今日こそわたしの純潔を奪って頂きますからね!」
「帰れ。というか、君が純潔?冗談はその作りキャラだけにしておきなよ」
「嫌ですぅ――!!というか、ちゃんと純潔ですからね!わたし、ウリエル様にお会いしたあの日に、身体を作り変えました!その日から、ずっと操を守ってます!ウリエル様のために!!」
「はぁ…どうしてこうなった」


そもそも、出会いは500年ほど昔まで遡る。当時多少仕事が落ち着いていた雲雀ことウリエルは、息抜きがてら地上に降りて休暇を取っていた。
そうした中で出会ったのが、この沢田都奈ことリリムなのである。地上で何故か死に掛けていた彼女を、悪魔と知りながら助けたのがまずかった。それはもう、数え切れないほどの年数を生きた中での最大の失敗であるとも思っている。
つまるところ、ウリエルは、その悪魔も天使も人間も特に区別しないという変わった性格のおかげで、この女悪魔に一目惚れされてしまったのだった。
以降五百年間に渡り、ウリエルはリリムに追い掛け回されている。
別に彼女自体は嫌いではないし、そのはっきりしていて積極的な性格は、悪魔ながらに気に入ってもいた。
とはいえ、ここまで積極的なのもいかがなものなのか。


「ウリエル様ぁ…お願いしますぅ…一緒に魔界に行ってくださいよぉ…!」
「僕に堕天しろと?」
「お願いしますぅうう!愛してるんですよぉ!!」
「断る」
「じゃ、じゃあ、せめてデート!デートして下さいウリエル様!」


自分を追いかけて、わざわざ人間のふりまでして追いかけてくるその根性は賞賛に値する。
気持ち悪い演技をして周囲をからかっているところは正直理解出来ないが、それでも。


「……気が向いたらね、」
「え…っ!?」


デートくらいなら、一緒に行ってやるのもいいかなぁと、嬉しそうにはしゃぐ都奈の姿を見て、そうおかしそうに微笑んだ。

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