short | ナノ
あの人と私が結婚したのは、あの人が私を見初めて下さったからだと聞いていた。
結婚式の時、綺麗な笑顔でよろしくね、と微笑まれたのを今でも覚えている。
綺麗な琥珀の髪を揺らし、翡翠の瞳を細めて笑う姿は誰が見ても美しいと絶賛するものだった。
幼い頃から、大名の姫として育てられてきた私は、いずれ顔も名前も知らない男の人の元へと嫁がされていくことを無意識のうちに受け入れていた。
恋慕う人もいなかったから、ならばせめて父様の役に立ちたい。
そう思っていた。

けれど。
慕う人が出来てしまった。
私は彼が…沖田さんが、好き。
沖田さんの正妻になれたことが、何よりも嬉しかった。
でも、それは叶わない恋だと思い知らされる。

沖田さんは、私に触れようとしない。
そもそも、私の部屋に訪れる回数すら少ないのだ。
彼がしょっちゅう街中へ遊びに出かけているせいもあるが、それでも少ないと思う。
窓から城の庭を見下ろすと、ちょうど沖田さんが出かけるところだった。
手には、何かの包みを大事そうに抱えて。
……一体、何処へ行くんだろう。
私は、堪らなくなって、彼の後を追い掛けた。



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