玲と別れて数年が経った。
アイツとは、あれから一度も会っていない。
転勤になり、遠くへ引っ越したと人づてに聞いたが、それだけだ。
あれから、色んな女と付き合ったが、俺は、まだ玲を忘れられないらしい。
付き合う女は皆、どこかしら玲に似ていた。
だが、浮気がバレた時、別れ話の時、あんなに凜とした美しい姿を見せたのは、後にも先にも玲だけだった。
玲は、いい女だった。
俺には釣り合わない、本当にいい女だった。
なぜ、彼女と付き合っていた時、浮気なんてしたのか…あんなことをしなければ、今でも俺の隣には玲がいただろうか、なんて惨めなことを考える。
ぼんやりと街中を歩きながら、ふと前を見れば…。
「玲ー、夕飯何食べたい?」
「ん〜…イタリアン」
「えー僕は中華がいい」
「こないだ食べたじゃん」
懐かしい、声と、顔と、表情と、笑顔。
数年ぶりに見る、玲の姿があった。
けれど、その隣には、俺じゃない男がいる。
総司、だった。
俺の会社の後輩で、数年前に移動で転勤になった…。
あぁ、そうか、そういうことか。
玲は、総司を選んだのか。
泣きたいのか、笑いたいのか、自分の感情がわからない。
ただ、その事実だけが不思議と胸中に落ち着いた。
「…そうか、幸せに、なったのか」
それを喜べる自分がいる。
玲と付き合って、玲との別れを経験して。
自分はどうやら、多少はいい男になれたらしい。
今までとは違った思いで、前の二人を見た。
「…まだ俺は、玲…お前を愛してる。……だから、幸せになれ」
さ
幸 よ
せ な
だ ら
と 愛
笑 し
っ た
て 人
く よ
れ
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