short | ナノ
「っ……なに?」
「人が…倒れたような…」

複数の人が折り重なって倒れたような、かなり大きな音が響く。
思わず唇を離した。しかし、身体は離さない。
そのまま、二人ともそちらに視線を向ける。
ばたばたとした足音に混じって、聞きなれた声が聞こえてきた。

「ちょ…マズイって一君!ぜってーバレたよ!」
「わかっている、だから早く俺の上からどけ平助」
「やるなー総司」
「左之、感心してる場合かよ!」
「な、永倉先生!重…苦しいです!」

………。
うん、明らかに剣道部の面々だよね。
何、皆で覗き?趣味悪いね…しかも、千鶴ちゃんまで…。
なんて呆れていると、玲さんが、あ、と声を上げた。

「どうしたの?玲さん」
「忘れてたわ、古典準備室と数学準備室の間の壁に穴があいてたの…」
「…なんで穴?」
「土方先生が、どこかの赤点常習犯にイラついて思わずあけたんですって」

それでいいのか、教頭。というか直せよ。
って、それより…。

「……見られた?」
「でしょうね、どうする?」

口元の唾液をぬぐって、玲さんは楽しげに言う。
僕も同じようにぬぐった。
そして、つられるように僕も笑って。

「とりあえず、隣行ってくる…玲さんはここで待ってて」
「行ってらっしゃい」

そう言って部屋を出た。
多分、玲さんが行った方が上手く誤魔化せるんだろう。
いや、ちょっと違うな…上手く黙らせられる、だ。
でも、敢えて僕に行かせたということは、多分僕の駆け引きを試してるんだろうな。
大丈夫だよ、玲さん。なんせ貴方仕込みなんだから。
僕、物覚えはいいしね。
そう思いながら、古典準備室の扉を開ける。
中にいた彼らは、全員でびくっと肩を震わせた。

「覗き見なんて…ずいぶんいい趣味持ってるんだね」

にっこりと笑って、そう言った。
引きつった顔で、あーだの、その…だの言ってる平助に笑いかける。
そして、皆を見渡し、独り言のように呟いた。

「あーあ、見られるなんてついてないなぁ…。やっぱり玲さんに夢中になりすぎてたのが原因だよね。でもさ、色っぽくて、目が離せないんだよね。他のことなんかどうでもよくなるんだよ」

そう言って、昨日玲さんに付けられたキスマークを見えるようにネクタイをほどいた。色っぽく微笑んで、問いかける。

「感想は?」
「へ…?」

新八さんが間抜けな声を上げるが、それは無視。
一番普段通りな左之さんに、同じことを尋ねる。

「見てたんでしょ、感想は?左之さん」
「俺か?そーだな…やたら色気が出てきたじゃねーか。玲先生に仕込まれたのか?」
「そうだよ、玲さん仕込み。キス、上手くなったってこないだ褒めてもらったんだよ」
「成る程な。いつの間にかそいつが似合うようになってるとはなぁ…」

そう言って、胸元のキスマークを指差される。
にやにや笑ってそう言われるが、そんなからかいには慣れっこだ。
同じように笑って、少し弾んだ声で返す。

「あ、これ?綺麗でしょ、今教えて貰ってるんだよね〜」
「ほ〜上達したのか?」
「まぁね。今夜には合格点欲しいなぁ…ってとこ」

そんな会話をしながら、他の四人を見ると、案の定。
顔を真っ赤にして固まっていた。



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