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夕暮れの差し込む放課後の数学準備室。そこに僕と彼女はいた。
なぜこんな狭いところにいるのか、その理由は色っぽいモノでは決してなく、ただ数学の個別補習を行っているという至極健全な理由だった。
普段、こういった補習は教室でやるのだが、あいにくと英語やらなんやらの他の教科の補習で埋まってしまったらしい。
他はそれなりに人数がいるのに対し、こちらは僕一人だからと玲先生が譲ったというわけだ。
僕としては、嬉しい限りだが。

そもそも、僕がこんな個別補習を受けることになったのはこないだのテストの点数と今回のテストの点数のあまりの落差にある。
古典以外のテストはいつもそれなりの点数を取っていたし、数学は得意だったことに加え、教科担任が玲先生だったからかなり勉強していた。だから、いつも数学は好成績だったのだ。
テスト返却の度に、「おめでとう、今回も頑張ったのね」って先生が微笑んでくれるから、そのためだけに努力した。玲先生の視界に入れれば、褒めて貰えれば、十分だった。

だけど、この前のテストの時。
たまたま帰りが遅くなって、自分の教室の前を通った時、数学の補習の様子を見てしまった。
教室にいたのは五人くらい。皆、学年でも散々な点数を取ったのだろう。僕にとってはわかりやすすぎる問題ですら、唸っていた。それを、先生が丁寧に教えていく。

凄く、嫉妬した。
どうして、こんなに努力している僕より彼らに構うの。
成績、悪かったんでしょ?だったら叱っておけばいいじゃない。
僕のこと、もっと褒めてよ。
ねぇ、玲先生…。

だから、考えて、実行したんだ。
次のテストでは、わざとらしくないように間違えて、補習して貰おうって。ちょうど単元も変わったし。出来ることなら呼び出して欲しい。土方先生の呼び出しと違って、すぐに行くから。

そんな僕の願いが通じたのか、返却の時は僕を心配そうに見つめて、「…今回はどうしたの?」って言ってくれた。「…ちょっと、ここ…苦手、みたいで…」そう言って落ち込んだように俯けば、「後で、職員室にいらっしゃい?」って、呼び出しもしてくれた。
休み時間に職員室に行って、先生と話して、結局個別補習を受けることに決まった。
で、今に至る。



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