short | ナノ




僕は浮気がちな男に恋した哀れな女の、いわゆるセックスフレンドで、誰にも弱みを見せないその女の唯一の拠り所だった。
だが、彼女を慰められるのは僕だけだという臆病な優越感に浸る自分もまた、それ以上に愚かな男だっただろう。

けれど、彼女も言ったように恋情というものは自分ではどうすることも出来なくて、好きだと思ったらもう駄目になるのだと身を持って体感した。
彼女のその、強く美しい瞳に僕が映ることはないのだと頭ではわかっていても、心は彼女を求めることを止めない。


消えないのだ、この恋情が。


彼女が欲しいと叫んで止まない。
馬鹿みたいに僅かに許された温もりに縋る。
いい人のふりをして、彼女を慰めてやるふりをして、その実、慰められているのは他でもない、この僕。


嗚呼、そうだ。馬鹿は僕だよ。
君の愛した男が浮気相手にと選んだ女を片っ端から奪ってやった。
そんなことをしても、何の解決にもならないというのに。
まさか、自分の顔とカリスマとやらをこんなことに利用する日が来るとは夢にも思わなかった。
なけなしのプライドも全部ひっくるめて、全部捨てて、くだらない嫉妬心に溺れていく。

どうだ、悔しいだろう。恨めしいだろう。
僕はお前の何倍も悔しかった、何倍も恨めしかった!
奪われたのは本命じゃないくせに、どうしてそんな顔をするんだ。
僕はお前に、本当に欲しい、欲しくて欲しくてたまらない女をずっと奪われているというのに!!
そうだ、そうやって苦しめばいい、悔しがればいい。
その醜い顔を晒して捨てられてしまえ!

僕が彼女を幸せにしよう。
お前なんかよりずっとずっと優しくするし、浮気なんかしないし、苦しめたりしない。大切にするし、誰より愛してあげよう。
だから、早く、




「別れてくれないかな、君なんかに彼女はもったいないだろう」

どうして、そんな顔をする。
はは、まさか、今頃気付いたのか?
お前の女を全て奪い尽くしたのが、この僕だと。
僕の目的が、彼女以外にはないのだと。
嗚呼、なんて無様。

どうせお前にとって、遊びのうちの一人なら、いいじゃないか。
一人くらい、僕にくれたっていいだろう。
もう邪魔なんかしないよ。彼女を手放してさえくれたら、もう邪魔はしない。もう君の女を奪ったりしないと約束しよう。


だから、頼むから。
僕に彼女をくれないか。


そうして彼女が僕のものになるわけでもないのに、僕は浅ましく策を弄する。
あまりに愚かで馬鹿らしくて惨めで、笑えるくらいだ。
ああ、笑えよ。
これが一人の女に溺れた男の末路だ。愚かな男の成れの果てだ。

こんなに好きなのに、どうして。
愚かで惨めで浅ましい、あまりに汚い自分。
身体だけでもいいから、何でもいいから彼女に触れたくて、こんな関係に陥った。全ては僕の弱さのせいだ。本心を隠すことばかり上手くなる。
求めているのは身体だけというふりをして、彼女を手に入れる策を企んでもがいてる。


あの子が欲しいと叫びそうになる心を押し殺して、僕の大好きな女の心を独占する、大嫌いな男に笑った。

「どうして迷う。簡単だ、彼女と別れればいい…これ以上惨めな思いはしたくないだろう?」






それは滑稽な僕の叫びで祈りだ
(一生のお願いです。どうか彼女を僕に下さい)






prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -