恭弥さんは、ちょっと変態なのかもしれない。
「玲」
「ちょ、恭弥さん……!?」
私達を除いて無人とはいえ、何時誰が現れてもおかしくない場所でそんなに抱きつかれたら、私達が恋人同士だとバレる。
バレる、と言うのは恭弥さんより私の職業柄で、恭弥さんもマフィアの幹部……とは言いにくい立ち位置に居るとはいえ、まだそう裏社会に狙われているわけではない。対する私は殺し屋、ボンゴレファミリーのボスの秘書。完全に狙われる。
あまり知られたくないけど、恭弥さんはあの手この手で私達の関係を周りに分からせようとする。
「いい加減に、してくれませんか」
「何、他の草食動物を気にしてるわけ? 怒るよ?」
「いっ……!?」
首筋にガブリと噛みついた恭弥さん。確実に首筋に歯形が残ったわけで……ああ、これどうしよう。
「隠しちゃダメだよ」
「ダメです! もー…私が痴女だとか思われちゃいますよ……」
「本当の玲は僕が全部分かってるから、いいじゃない」
よくもまぁそんな恥ずかしい言葉がポンポン口から出てきますなぁ。
それでも恭弥さんは冗談なんてたまにしか言わないからそれが真実だと分かって、顔が熱くなる。そんな私を見て可愛いなんて呟き、また私を抱き締めるんだ。
昔の彼じゃ、考えられない。
「……ねぇ、何で君は僕達の関係をそこまで隠したいの?」
「だーから、恭弥さん。完全にマフィアと一緒にされちゃいますよ? 群れるの嫌なんでしょう?」
「……」
やっぱり、嫌なんだ。
それでも私とこうやってじゃれてくれるのが嬉しい。恭弥さんに愛されてるなんて、夢みたい。
だけど、そろそろ仕事をしなきゃ。
そっと恭弥さんから離れようとしたら、閉じ込められたみたいに抱き締めた。
「きょーや、さん?」
「止めてしまえばいいのに。ボンゴレも殺し屋も君と繋がる縁も僕以外の全てをたちきればいいのに。
玲に必要なのは僕でしょ? 僕も玲が必要だよ」
確かに、私に恭弥さんは必要だし、恭弥さんも私が必要なのかもしれない。なのに、何でこんなに……変な感じがするのだろう。
「玲が居るから、こんな場所に来てるんだよ。ああ、もうあの目障りな虫は僕に楯突くし、……殺したけど」
「なっ! 恭弥さんまさか……!?」
殺し屋の私が、血の臭いに気づけないなんて……。でも、それが本当なら、恭弥さんはボンゴレ追放だ。
「ふふ、嘘だよ」
「う、そ?」
「うん。だけど玲が好きって言った男は気にくわなかったから、もう歩けない身体にしたけど」
それでも十分問題じゃないか。
恭弥さんの性格や狂暴性は承知で付き合っていたけど、その狂暴性が、増している?
少し怖くなって、恭弥さんから逃げようとしたけど、ビクともしない。恭弥さんは少し首を傾げて私を見下ろす。
「玲?」
「き、恭弥さん……」
「……可愛い」
そっと触れるだけのキスをした私達。唇が離れて、おでこにキスをされたらまた強く抱き締められた。
「ボンゴレ、止めて」
「……」
「殺し屋も止めて」
「…………」
「玲、僕の側に居て?」
これも、運命なのか。
こんな狂気的な恭弥さんの頼みを断れるはずもなく、私は大人しく縦に頷いた。
最高で最低のお願いを今「玲、愛してるよ」
嬉しそうに私にまたキスをする恭弥さんを見たら、少し救われた気がした。
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