彼女が幸せなら、それでいいと思った。
彼女が好きだから、彼女を愛しているから――その幸せを、祈ろうと思った。
だけどそんな思考さえ、雲雀は嘲り笑う。
「そんなのは、本当の愛じゃない」
祝えるものか。自分以外との幸福など。
いっそ歌うような声で、雲雀は続ける。
自分の思いはどうなる。
好きで好きで好きすぎて、誰にも渡したくないのに。
誰にも触れさせたくないほど愛しているのに、他人になど譲れるものか。
いっそ共に逝ってしまいたい。
狂気と情愛を多大に孕んだ言葉に、ツナは思わず怒鳴った。
「っ、どうして!どうして、好きな人の幸せを願っちゃいけないんですか!?好きだから…彼女が幸せなら、それでいいって…どうして思っちゃいけないんですか…っ、俺の愛は、間違ってるっていうんですか!?」
だって好きなのだ。
どうしようもないくらい、彼女が好きなのだ。
好きな相手には笑っていて欲しい。それが例え、自分以外の隣ででも。
「…勘違いしてるようだけど、」
ツナの慟哭を受けてなお、いっそ憎らしいほどの冷静な声音で雲雀は返す。
とうとう涙を零し始めたツナを見下ろして、淡々と続けた。
「僕は別に、君が間違っているとはいわないよ。むしろ、君は正しい…とても正しい愛だと思う」
予想外の雲雀の返事に、ツナは大きな瞳をさらに丸くする。
きょとんとした顔は、男ながらかなり愛らしい。
とはいえ、男色の気はない雲雀には何の感慨も抱かせず、そのまま視線を逸らし、窓の外へ向けた。
「…これは、僕の勝手な結論だから、あんまり深く考えなくていいんだけど…聞くかい?」
「……はい、」
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