short | ナノ
「…君は、馬鹿だね」


温度のない声で無遠慮に投げつけられた言葉に、堪えていたはずの涙が零れだす。
ツナは、その大きな琥珀色の瞳に真珠のような潤いを携えて、いつの間にか目の前に支配者の如く立っていた雲雀の目を向けた。
ゆらゆらと、零れ落ちそうに大きな瞳が揺れている。
そこには、ようやく身についてきたボス然としたオーラも気迫も何もない。
中学の頃のような、弱い草食動物のままだった。
だが、群れる草食動物を嫌う雲雀は、それを見ても表情を変えない。
それこそが、彼の一番の変化である。

並盛の秩序、恐怖の風紀委員長、最強の守護者、風紀財団の若きボス、裏社会の君臨者…様々な異名を冠し、恐怖と畏怖と憧憬を一身に集める彼には、その全てを捧ぐと言っても過言ではない恋人がいた。
ぞっとするほど美しいその造形に釣り合うほどに、彼女もまた美しい女性である。
二人が並ぶと、まるで一枚の美術品のようにすら思えてくる。
雲雀は彼女をとても大切にしているし、彼女も雲雀を愛していた。
彼に想いを寄せる者達も、あの仲睦まじい姿を見せられれば、納得せざるを得ないだろう。

だけど。
ツナは、ツナだけは知っている。
雲雀の愛は、行き過ぎていることを。
過保護という言葉では表せず、溺愛という言葉でもまた足りない。
それは、もう─────狂愛の域だ。

彼女を愛し彼女に溺れ彼女がいなければ生を感じることさえままならない。
近づく不貞の輩は容赦なく排除するし、彼女が誰かと話せばそれだけで嫉妬する。
狂愛こそが真の愛だと誰が言ったのだろう、彼は間違いなくそれを体現していた。
だって、彼が浮気する姿なんて想像すら出来ない。
容姿だけはとても美しいから、群がる女は掃いて捨てる程いるのだが、あの様子では視界にすら入っていないだろう。
彼が視界に入れるのは、守るのは、愛するのは、全てを捧ぐのは。
唯一絶対と決めた、彼女だけ。
運命だと言い切った、彼女だけ。



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