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「朝は嫌いだよ」


唐突に雲雀様がそう言った。
私の膝に頭を乗せてまどろんでいた雲雀様が、隙間から入り込んでくる朝陽に不機嫌そうに顔を逸らした。

幼子のように拗ねた表情からは、普段の冷徹な光は幾分も感じられはしない。
仕事柄あまり陽に当たらず、元から白いのであろうその肌はここの遊女達と同じように太陽の光すら弾き返しそうだった。
羨ましいほどに艶めくその黒い髪をやんわりと撫でれば、口元がかすかに上がった。


「仕事柄のせいかな、日の光は眩しくて仕方ない」


格子を閉めようかという私の言葉に、彼は笑ってこのままでいい、と返す。
「閉めたら、帰りたくなくなるからね」
そんな言葉を添えて。

雲雀様が私をいたくお気に召しているのは知っていた。
これでもそれなりに位のある遊女だというのに、彼は定期的にここに通う。
いっそここの楼を買い取ってしまおうか、なんてくすくすと笑っていたことを思い出す。
それとも、君を身請けしようか。
酒の席の、床の中での戯れ言。ただの睦言。
それでも嬉しかったことを憶えている。


風流なことを好む彼は、遊女の私達がするようなこともそれなりに好んでいて。
踊りも、三味線も、茶道、和歌、囲碁、琴など…。
そういったことも一通りの知識があるばかりか、身に付けていたのだった。
昨夜も寝室にきてからも、私の踊りや三味線を鑑賞することを望んだ。
交わりはどちらかといえば、ついでに過ぎなかったのだ。
とても珍しい客だともいえる。



不意に、私の差し出した煙管を胸元から取り出し、ゆったりとした動作でそれを咥えた。
それは、彼が帰る前の癖だった。

遊女は気に入った客に自分の煙管を差し出す。
客がそれを受け取れば、客も遊女が気に入ったということになる。
そのやり取りで差し出した煙管を、彼は酷く気に入っていたようだった。


「…帰るよ、」


起き上がる彼に、後ろから抱き着くようにして着物を着せる。
それを大雑把に羽織って、咥えた煙管を手に持った。

そして囁くように詠うのだ。







「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」
( しからばともに堕ちませう )







「口煩い者全てを黙らせて、君とゆっくり朝寝がしたいものだね」



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