short | ナノ

 私は、愛情というものが理解できなかった。
 そして、誰かを好きになったことすらなかったんだ。
 友達は、そんなことないよ。生きているってことは誰かに支えられて、愛されているんだよって言っていた。また別の人は、私が愛されている人間だからこそわからないんだと軽蔑した。
 だけど、わからないものはわからない。青春? 甘酸っぱい感情? 何それ美味しいの?
 ねぇ。私はおかしいの? 人間じゃないの? 気持ち悪いの? 狂ってるの?
 泣きそうになっている私の腕を引っ張ってくれたのは、あの人だった。


『僕が教えてあげるよ』


 そう私に囁いた雲雀恭弥とは、中学校の同窓生という関係。ただそれだけだった。特に話したこともないし、喧嘩だってしたこともない。接点のせの字も無かったはずだ。
 だけど、残念ながらそんなことどうでもよかった。
 私は何が何でも普通になりたかった。恋を知りたかった。だから……。
 十年ぶりに再会した彼の手をとった。


▽△

「やっぱり、愛しいって気持ちはわかりません」
「そう」
「でも、貴方の腕の中は心地いいです」


 それから一ヶ月。私は始めて雲雀恭弥に抱かれた。
 私は貞操概念とやらがないのか。それだけで自己嫌悪に陥るには十分だったものの、それさえどうでもよくなるほど、雲雀恭弥の愛撫は自分の思考を麻痺させた。
 ここが何処だとか、これから何をしなきゃいけないのか、そんなことも雲雀恭弥の心まで射抜きそうな鋭い視線の前では考えられない。思考が麻痺した私が理解できることは、お互い生まれたままの姿を密着させていることだった。さっきまで埋められていた箇所は悲キリキリと痛み続けている。なのに、まだ私は愛がわからない。


「君って、何時も一人で居たよね」
「へ?」


 雲雀恭弥の腕に頭を乗せながら、私は首を傾げる。雲雀恭弥はそんな私を見てクスリと口角を緩めた。


「愛とか恋が分からないのは、他人を必要としてなかったからだよ」
「……なるほど」
「何、納得してるの」
「いや、確かに人間に興味はありませんでしたし」
「フフッ。やっぱり君って面白い」


 ……あの冷酷非情と謳われた雲雀恭弥とは到底思えないくらいに彼は笑っていた。
 それが、どんなドロドロした感情が裏に潜んでいるのか……私にはわからない。分からないことばかりで情けない。
 そっと、雲雀恭弥の大きな手が、私の頭を撫で上げた。

「大丈夫。玲と僕は少し似てるから」
「……どこが?」
「僕も、君に会うまで知らなかったよ。
 こんなに自分色に染めたいと思った人間は初めてだ」


 部屋が薄暗いせいか、彼の笑みがどこかブッ飛んだものに見える。
 確かに、私は彼色に染め上げられているのかもしれない。
 だから、私はこの部屋から一ヶ月は出ていなくて、足には鉛みたいなものが付けられて、服装だって雲雀恭弥が支給したものしか着用していない。

 なるほど、これが恋なのか。
 これが、愛なのか。


「貴方には、勉強させられますね」
「君がそう思うんだから、そうなんじゃない?」


 雲雀恭弥は愉しそうだ。欲しかったおもちゃを、正確には欲しかったお人形であそんでるようだった。その人形が私だってことは簡単に予想される。そして、彼の愛の種類が所有欲からなるののだっていうことも気づいている。
 だけど、モノに対して所有欲さえ沸かない私にとってみれば、そんな彼の滑稽な愛情表現さえ羨ましかった。


「玲。愛してるよ」


 ソレは、ナニに向かって囁いたのですか?


愛ってなんですか






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