short | ナノ


やぁっと、つかまえた。





愛だとか恋だとか、そういった不確かな感情を主軸にして生きるだなんて、酷く滑稽で愚かで哀れだと思った。
信頼だとか仲間意識だとか、そんな不明瞭なものに縋って生きる人間は、何処までも無様でくだらなくて無意味だと思った。

それは僕が、愛を知らないからだとか、そういったありきたりな理由からきているのではなくて。
もっと本質的な、根本的な、深い部分できっと何かの回線が繋ぎ間違ったのだと思う。


彼女のことは、別に好きでも何でもなかった。
けれど、あのはっとするほど真っ直ぐに前を見つめる横顔だけが、何故か目に焼き付いて離れなくて、それから十年もの間、僕の記憶から消えてくれないでいたことも確かで。
いつも一人でいた彼女の、その横顔だけが、僕の中に残った唯一の彼女の記憶。


それが覆されたのは十年ぶりに彼女に再会して、ほとんど泣きながら惑う彼女を見たその瞬間だった。

「ねぇ。私はおかしいの?人間じゃないの?気持ち悪いの?狂ってるの?」

どくりと、心臓が脈動した。
欲しいと思った。彼女が。
どんな手を使ってでも、手に入れたいと思った。
自分だけのものにして自分だけが触れられるようにして自分だけが愛でるようにして自分だけが愛せるようにして自分だけが彼女の唯一になって、それで。

アイシタイと、そう思った。


「僕が教えてあげるよ」


そう言った自分の顔は、どれほどの狂気と愉悦に塗れていただろう。





初めて抱いた彼女の身体は、思ったよりも小さかった。
熱く火照った身体を強く抱きしめれば、女特有の甘く柔らかな匂いが鼻腔を擽る。
蕩けた瞳で僕を見上げてくるその表情に理性のタガが外れた様子を、自分のことでありながら遠く離れたことのようにぼんやりと見守る自分がいた。

彼女の足には鎖をつけた。
彼女が決して逃げないように。僕の前から消えないように。
部屋からは出さなかった。
その代わり、綺麗な服を、装飾品を、美味しい料理を、世間一般に贅沢とされるものをみんな与えた。

愛を知らないなら教えてあげるといった僕の凶行に、なるほどコレが愛かと納得する彼女は、当事者の僕が見ても可哀想だとは思うけれども、そこに罪悪感は少しだって芽生えない。

人形のように愛でようと思った。
何も知らないならこれが正しいのだと思わせればいい、このままここから出さなければいい。
この感情が所有欲と独占欲と支配欲とそれから愛欲から成る汚いものだってことにはとっくに気付いていた。
彼女への愛が酷く歪んでいてまるでモノに執着するような愛であるともわかっていた。

けれど。
だって、それも愛だろう?

それの何がいけないというの。
それでも大切にするし彼女がイイコでいる間はずぅっと大切に愛でてあげる。反抗するなら躾てあげる。
僕の愛はあくまでもモノに執着する"ような"愛であって、本当に彼女をモノだと思っているわけではない。
だって、彼女の代わりなんていない。
モノなら壊れたら新しいのを調達すればいいけど玲は出来ない。だから壊さない。
玲がいいんだ玲じゃなきゃ嫌だ玲好き大好き玲だけ愛してる。

そういえば先ほどちらりと漏らした僕の恋愛観だけれども。
おそらく誤解された解釈をされたと思うだろうから、ここで修正をしておこうか。
僕は別に愛を否定しているわけじゃない、恋を侮蔑しているわけじゃない。
ただ、そんな曖昧なものを信じて縋っているのに馬鹿らしいと思うだけだ。

つまり何が言いたいのかというと。


「玲、愛してるよ」





恋ってなんですか


本当に大切なものなら、縛って奪って攫って閉じ込めて繋いでしまえばいい。
心は身体の中にあるんだ。
身体がなければ心はどこにも行けやしない。
物理的に手に入れてしまえば、ほうら、安心。

ね、簡単でしょ。
これで玲は僕のモノ。





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