short | ナノ
「好きだ…」
「っ…」
「好きだっ…君が好き、大好きだよ、愛してる…!」
何も考えられない。
ただ、花葵が好きだ、と、それだけが僕の身体を支配していた。
愛してるのに。
こんなに愛してるのに、僕らは決して結ばれない。
愛しさが募れば募るほど、鮮明になっていくその事実に、僕は目頭が熱くなって、冷たい雫が頬を伝う。
ただ抱き合って、着物を脱いで、でも、何をするでもなくぴったりと寄り添って、お互いを肌で感じていた。

明けゆく空を二人で眺めて、数えきれないくらいの口付けを交わして、無情にも迫りくる僕らの「終わり」を、ただ黙って見つめていた。
夜明けを告げる唐紅の太陽と共に、ついに、さよならはやってきた。
僕たちの始まりがそうであったように、ただ静かに終わったんだ。

「日…昇っちゃったね」
「はい…ほな、さいならどすなぁ…」
「うん…」
重たい身体を起こして、着物を着直す。
もう、何もかもがやりきれない。
だが、花葵が着物を着るのをぼんやりと見つめていた時…僕は、ある違和感に気付いた。
お腹を庇うように、彼女はゆったりとした動作で着ていたのだ。
まさか…。
まさか…花葵…。
ある一つの可能性を導きだした僕は、素早く花葵の手首を掴んで目を合わせ…震える声で尋ねた。
「まさか…まさか花葵、そのお腹には…」
「…気付いてはったん?」
彼女の瞳が驚きで見開かれる。
あぁ…花葵。
「そのお腹には…僕の子が、いるんだね…?」
「……その通り、どす。うちのお腹には…沖田はんの子が宿っとります…」
そんな…こんな、ことって…あるんだね…。
あぁ…そんな…。
「っ…せっかく、出来たのに…せっかく、僕らが愛し合った証が残せるのに…!」
花葵は、遊女。
出来た子は…殺される。

「沖田はん…」
「え…?」
急に、花葵が強い決意を秘めた瞳で僕を射ぬく。
その眼差しに、どきりとした。
「沖田はんは…誠に生きておくれやす…」
「でも…僕は…」
「うちとの愛も、捨てきれん、どすか?」
「当たり前だよ!僕は…そんなに強くない…」
「なら…この子には、死んでほしゅうないどすか?」
「……当たり前だよ…」
「ほんなら…うちは、愛に生きます」
花葵は、そう、きっぱりと言い切った。



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