short | ナノ
逃げても、いいよ。
そう言っていつも通りに微笑む先輩が痛々しくて…あまりにも愛しく思えて…気が付けば、私は先輩に抱きついていた。

「…っ、逃げません!」
「玲ちゃん…」
「逃げたりなんかしません…気持ち悪いなんて、嫌いだなんて思いません!だって…私が好きになったのは、間違いなく総司先輩なんです。なのに…先輩が人間じゃないってだけで、嫌いになるわけないじゃないですか…!」

ポロポロと涙が零れて止まらない。
怖いはずなのに、愛しい気持ちや好きって気持ちが断然勝って…それを、先輩にもわかって欲しくて。これ以上、泣きながら笑って欲しくなんてなくて。
必死に伝えた。

「玲、ちゃん…」
「怖い、です…怖いですよ。でも、それ以上に、好きなんです!先輩が…大好きなんですよ!」
「…抱きしめて、いいの?」
「抱きしめてくれなきゃ嫌です」

そう言うと同時に、今までにない力で抱きしめられる。
小さな嗚咽が聞こえて…あぁ、よかった、って思った。
さっきと同じように、逃がすまいと糸が絡み付いてきたけれど…不思議と、怖くなんてなかった。
私の肩に埋められた先輩の頭を優しく撫でて、ただただ黙って腕の中に収まっていた。

暫くすると、ばつが悪そうに顔をあげる総司先輩。
先輩は、また私の身体に絡み付く糸を見て気まずそうに目を逸らした。
「ごめん…家だと、いうこと聞かないんだ」
多分、この糸のことだろう。
「これって、何なんですか?」
「…簡単に言うと、蜘蛛の糸。こうやって操れるんだけど…」
言いながら、先輩が片手を上げる。すると、絡み付いていた糸がひとりでに離れて消えていった。

「わぁ…凄いですっ」
「消すのはいいんだけど…家だと、勝手に出てきちゃうんだ。蜘蛛の糸って、獲物を捕らえたりするものだから…」
「へぇ…どうして家だと出てくるんですか?あ、あと巣って…」
「家が、僕にとっての巣のようなものだから。…より蜘蛛に近くなるんだよ。獲物とか敵がいたら、本能的に捕らえるんだ」
「獲物…じゃあ、私って先輩の餌ってことですか?」



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