「君のことが、好きなんだ」
風が、吹き抜けた。
いや、ちょっと待て。
今こいつ何て言った…?
とりあえず、状況を整理しよう。
私は放課後、目の前にいるこの男…沖田総司に呼び出された。
そして、告白された。
ちょっと待て。
なんでだ、告白される覚えなんかこれっぽっちもない。
だってこいつは、色んな意味で有名なんだから。
薄桜学園二年、同じクラスの斎藤一と並んで学園の王子様的存在だ。
斎藤とこいつが違うのは…こいつが、とんでもない遊び人だということ。
いやもう、凄いらしい。
私と沖田は同じクラスだから、よく女子に囲まれているのを見る。
そんな遊び人が、一体私に何の用だ。
「………あのさ、玲ちゃん?」
はっ、まさかあれか?
たまには自分になびかない女を落としたいってか?
ふざけるな!
何で私がお前に遊ばれなきゃならない、大体私は男嫌いだ。
「ねぇ、聞いてる?」
わかった!
アレだ、賭けか何かだな。
男嫌いを落としてこいとか、そんな感じだろ。
ちくしょー!
私はそんな軽い女か?
私の男嫌いは筋金入りなんだぞ。
簡単に直してやるか!
「聞いてる…!?」
「うわぁ!!」
び、びっくりした…。
いきなり肩を捕まれて、耳元で叫ばれた。
「何するんだ!」
「それはこっちの台詞…とりあえず、一言くらい返事してくれないかな?なんか、傷つくし」
さっきから呼んでたんだよ、と若干呆れた目で見つめてくる沖田。
うん、私も今傷ついた。
「いや…何て返事すればいいわけ?」
「僕としては、わかった付き合おうって答えが欲しいかな」
「無理だな」
「え、即答?」
「だって、お前遊び人だし…」
そういうと、彼はきょとんとした後…不思議そうに問い掛けた。
「え…?遊び人だから、駄目なの?」
「まぁ…一応、」
「僕って、酷い男じゃない?」
「……は?」
いきなり何を言いだすんだ、こいつは。
女から見たら、かなり酷いと思うだろうが。
「いや、酷いと思うけど?」
「じゃあ何で駄目なの?」
「………もうお前、何が言いたいんだよ」
わけわからん。
それは向こうも同じの様で…じっと私を見つめた後、ふと口を開いた。
「………玲ちゃん、一つ聞いてもいい?」
「何だよ、」
「君の好きな男のタイプは?」
「……は?」
「いいから答えてよ」
「はぁ…。まぁ…とりあえず、金稼ぐやつ」
「うん、聞くまでもなかったね。玲ちゃん…僕に言ったこと、忘れてるでしょ」
「…………はぁ!?」
「やっぱり…」
私は思いっきり叫んで、沖田は盛大にため息をついた。
私が、沖田に話したことを忘れてる?
……男のタイプで?
あり得ない。
全く記憶にない。
「あのさ…一年くらい前に、皆でこっそり居酒屋行ったの覚えてる?」
「あぁ、それなら。確か、私と沖田と斎藤と平助と…土方先生、原田先生、永倉先生、千鶴に千でだろ?」
「その時、僕玲ちゃんに聞いたんだよ…好きな男のタイプは、って」
「………ちなみに、その時私は何て?」
物凄く嫌な予感がすり。
まさか…
「一言こう言ったよ。……"酷い男"って」
「………………」
「その時から好きだったから、考えたんだよね。どうやったら酷い男になれるかを…」
つまり、あれか?
私のことが好きだったらしい沖田は、一年前の酒の席で私の好みのタイプを聞いたと。
で、酔ってた私は"酷い男"とかいうとんちんかんな答えを返して…
しかも、それを沖田は真に受けて……
「ま、まさか…お前の女癖の悪さって……」
「うん、酷い男になってみた」
「ここに馬鹿がいる!」
「あはは、酷いな」
だからか。
あの意味不明発言の数々は。
こいつを遊び人にしたのは私だったのか…!
やるせなくて涙が出そうだ。
こいつは…こいつは…!
「でさ、そろそろ告白の返事くれないかな?君の好みが酷い男じゃないなら、ちゃんとした好み教えてよ。もともと僕、女遊びしたいわけじゃなかったから、そろそろ止めたいんだけど…」
「あのな…」
「ほら、君の好みどおりにするからさ。だから、お試しででもいいから付き合ってよ」
「……わかった。私の好みは誠実で優しくて浮気なんか絶対にしない紳士的な人だから、よろしく」
「うん。なるべく頑張るよ。これからよろしくね、玲ちゃん。絶対に僕のこと好きにさせて見せるから」
「はいはい…」
とんでもない告白を受けたので、とりあえず仕返しとしてめちゃくちゃな注文をつけておく。
一年続いたら、信じてやってもいい…かもしれない。
ま、まだ信用したわけじゃないんだからなっ!
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