short | ナノ
金曜日。

いつも通り、遅刻をして三限目辺りにようやく教室に入ってきた総司。
ちなみに、三限目の授業は狙ったかのように古典の時間であった。
当たり前のように、土方の怒号が響く。

「総司!てめぇはまた遅刻か!」
「え…?あ、すいません」

怒鳴ってはいるものの、土方は始めから総司の謝罪などは期待していなかった。
いつもいつも、遅刻を怒っても「あ、おはようございます。今日も素敵な眉間の皺ですね」などとふざけたことを笑顔で言うのだから。
しかし、今日は違った。
あっさりと謝罪をする総司に、土方はツチノコでも見たような表情をする。
いや、実際。
ツチノコの方が珍しかった。
クラス全体がざわめく中、総司は余裕のない表情でせわしなく携帯を弄っている。

「おい…」
「何ですか、土方さん」
「何か変なもん食ったのか?つか、授業中に、遅刻して、堂々と携帯弄ってるんじゃねぇ」
「何も食べてませんよ」

言いながら、携帯と鞄を机に置く。
筆箱と教科書とノートを取り出して椅子に座るが、どれも開く様子はない。
さすがに心配になった土方が、若干声を引きつらせて問いかけた。

「…何があった」
「………」
「…総司、」
「……姉さんが…」

ポツリ、と。
独り言のように呟く。

「玲がどうした」
「大学、行ったんです…」
「…いや、普通に行くだろ。大学生なんだからな」

意味がわからない、という顔をしていた土方だが、次の総司の言葉に顔色を変えた。

「普通…?………40度の熱があるのに、ですか?」
「……はぁ!?」
「止めても聞かないんですよ!絶対今日は行くって!!」

ガタン、と音を立てて立ち上がる総司。
その瞳は、ゆらゆらと不安そうに揺れていた。

「っ何やってんだ、あいつは!」
「僕もう心配で…メール送ったんだけど返してくれないし…倒れたりしたらどうしよう…」
「事情はわかった。…けど、なんでアイツはまた行くなんて言い出したんだ?」

総司に負けず劣らずなサボリ魔である玲。
その彼女が熱を出してまで大学に行く理由がわからなかった。
玲の担任も受け持った土方は、姉弟揃って、めんどくさい性格をしているのを嫌というほど熟知している。

「…今日こそ、英語の高橋準教授を落とすって……」
「…………」

土方は、今度こそこの姉弟に関わりたくないと本気でそう思った。
教室が静寂に包まれたその時、唐突に総司の携帯が鳴り響いた。
大急ぎで電話に出る総司。
その必死さから、相手は玲であるだろうと想像がつく。

「もしもし姉さん!?」
「あ〜…総司?」
「うん、僕だよ!どうしたの、やっぱり倒れた?」
「んーん。高橋落としたし、身体だるいし帰るわ。迎えにきて」
「わかった!大学の門で待ってて」
「早くしてよ」
「わかってるよ、じゃあね、姉さん」

その後の総司の行動は、とにかく早かった。
三十秒も経たないうちに荷物を全部まとめて、鞄をあさってバイクのキーを取り出す。
そして、土方の方に向き直り、早口で捲くし立てた。

「ってことなんで僕帰ります!姉さん待たせてるんで!」

教室に着いてから十分余りで、総司はまた教室から出て行った。
しばらくして、土方はまた肩を落とす。

「……なんだったんだ」



ご愁傷様。



prev next
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -