short | ナノ


城に逃げ帰って、しばらく部屋に塞ぎ込む。
けれど、沖田さんが私を心配する様子はなかった。
当たり前だ、彼の頭の中を占めているのは、きっとあの恋仲の人のこと。
もうすぐ側室に、近藤の姫がくる…その噂は、城中に瞬く間に広がっていった。


その、一月後。
彼女は、やってきた。
近藤の玲姫様として、沖田さんの側室に迎えられた。
一応体裁を考えてのことなのか、彼女の部屋は私の部屋より一回り小さかったけれど…沖田さんの部屋に、とても近かった。


沖田さんは、暇さえあれば彼女の部屋に入り浸っていたり、彼女を部屋に呼んだり、二人で庭に出たり、街に出かけたり…とにかく、片時も彼女を傍から離そうとしなかった。
家臣達や侍女達は、世継ぎを産むのは玲姫様ではないかと噂しあっている。
けれど強く言えないのは、玲姫様が近藤家の姫だからだ。
いくら私が雪村の姫とはいえ、沖田の家と繋がりが深いのは雪村家ではなく近藤家。
玲姫様が男児をお産みになられれば、お世継ぎに決定されるのは必須だった。
私は、ただ寄り添い愛を語らう二人を見るしか出来ない。
仲を裂こうとも思えなかった。
だって、あまりにも、二人が幸せそうだから…邪魔なんて、出来なかった。



一年後、噂は真実となり、玲姫様は男児をお産みになられた。
以前にも増して幸せそうな二人を、私は黙って見つめていた。


三角にすらならない、一方的な恋心。
貴方が私を見てくれることはないとわかっていても、貴方をお慕いする気持ちは消えないのです。
ですから、どうかお幸せに。



嗚呼。
この恋は、想いは、恋情は。
いつか愛は霞むのでしょうか。



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