short | ナノ


なるべく粗末な着物に着替えて、侍女達にばれないように城を抜け出す。
町の人達の雑踏に紛れて、沖田さんを探していた、その時。


「うわぁ…綺麗な着物、本当に貰っていいんですか?」
「もちろん。簪もあるからね、一緒に使って?」
「ありがとうございます、総司さん!」


可愛らしい女の子の声と、沖田さんの声が聞こえてきた。
慌ててそちらを振り向く。
そこにいたのは、美しい着物と簪を手に笑顔を浮かべる可愛らしい女の子と、彼女をいとおしげに見つめる沖田さんだった。
仲睦まじそうに寄り添い、手を重ね合っている。
誰がどう見ても、恋仲にしか見えなかった。
胸の奥が針で刺されたように、酷く痛む。
けれど、その痛みを無視して二人に向き直った。


「そうだ、聞いて!玲」
「はい、何ですか?」
「僕、やっと父様を説得したんだ。雪村の姫様を正妻にしたら、君を側室に迎え入れていいって!」
「ほ、本当ですか!?」

一瞬、耳を疑った。
彼は今、何と言ったか…。
私を正妻にしたら、彼女を側室に出来る…。
……そうか、そういうことなのか。
初めから、沖田さんはあの人を妻にするつもりで、そうするには私と結婚しなくちゃいけなくて…だから、なんだ。
私、なんて…道具に過ぎなかったのだ。
そう思う合間にも、二人の会話は進んでいく。


「もちろんだよ。近藤さんのとこに話はつけてきた、君を養子に迎え入れて、僕のとこに嫁がせてくれるって」
「じゃあ、私…総司さんと…」
「結婚、出来るよ。大丈夫、正妻なんて形だけだ。子供は君との間にしか作らない…近藤さんとこから嫁ぐんだよ、例え側室だって跡継ぎになれる」
「っ、はい…嬉しいです、可愛い赤ちゃん、生んでみせます…」
「うん、楽しみにしてる…早く抱かせてね、僕らの子供」





見ていられなくなって、私は逃げるようにして城に帰った。
本当に、政略結婚だったのだ。
苦しくて苦しくて、二人の幸せそうな顔が、頭に何度も浮かんで消えて。
彼が私を見初めて下さった、というのも、嘘だったんだ。
ただの社交辞令、政略結婚の常套句。
沖田さんが、愛しているのは、私なんかじゃなくて、あの女の子。
玲、と呼ばれていた、綺麗な綺麗な女の子。
姫の私じゃなく、平民の……ううん、もうすぐ平民じゃなくなる。
近藤家の養子になって、沖田さんに嫁いで…世継ぎを産む、あの人だ。






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