02


土方は、目の前の光景が信じられなかった。
あの術を、自分は知っている。
そしてそれは…自分が、ただの知識として沖田に教えた、禁じられた魔法だからだ。
魂を、抜き取る、禁断の魔術。
容易に扱えるものでは決してない上、使うための条件がある意味残酷であるため、これを使ったという記録はほとんど残っていない。


魂…それは、人の心ともいえるものだろう。
人は、恋をすると「心を奪われる」という表現をする。
言い換えれば、恋した相手に「魂を奪われた」ということだ。
この魔術の使用条件とは、すなわち、相手が自分に思いを寄せていること。
そして、相手に一切気持ちがないこと。
もちろん、同情や情けなどもあってはならない。
相手が自分を愛する気持ちと、相手を物と思う冷酷な心とが必要だった。
もちろん、禁じられた魔術であるため、膨大な量の魔力を必要とする。
その上、失敗した場合のリスクは死を伴う…故に、禁忌とされてきた。


「総司…」
「っ、……土方、さん」


だが、それを。
沖田は、躊躇いなく使った。
手馴れた様子からみて、これが最初や二回目などという甘っちょろい数字ではないことを悟る。
土方は、沖田の名を呼び、木の影から姿を見せる。
気配に気付かなかった沖田は、驚いて振り返った。


「何、してる…」
「何って…逢引、ですかね」
「なら、何であの魔法を使った…」
「…なんだ、そっから見てたんですか」


おどけた様子で肩をすくめる。
まるで、悪戯が見つかった子供のように。
だが、その目が少し笑っていないことに気付かない土方ではなかった。


「……魂なんざ集めて、何をするつもりだ」
「そんなの、言うと思ってるんですか?言ったら、土方さん、全力で止めようとするでしょう?」
「止められるようなことをしようとしてるってことか、」


それだけ言って去ろうとする沖田の肩を掴む。
さきほど、沖田の隣にいた女を見た時と同じ感覚が胸によぎる。
少し震える声で、静かに問いかけた。


「お前……まさか、…葵を……」
「………」


沖田は、何も答えない。
ただ、酷く痛々しい、哀しげな瞳をしていた。


「……大丈夫ですよ。魂をとったっていっても、ほんの少しですから。僕を好きだったことも、さっきのことも忘れます」
「話を逸らすんじゃねぇ!総司…お前、」
「いいから、土方さんは黙ってて下さいよ!!」


大声で怒鳴ると、沖田は土方の手を思い切り振り払った。
今にも泣きそうな瞳で睨みつけると、そのまま怒鳴り続ける。


「あの時!半年前…何もしてくれなかったくせに、今さら何なんですか!正義の味方がしたいのなら、余所でやって下さいよ!」
「総司…っ、」
「土方さんは黙ってて下さい。僕の邪魔は絶対にさせない…もし、邪魔したら…僕は、自分からアカデミーに行きますよ」
「お前っ…本気か!?」
「当たり前ですよ。僕は、どんな属性の魔法だって操れる…おまけに禁断の魔術もだ。こんな希少価値のある実験台、喜んで受け入れてくれますよね?それに…アカデミーなら、僕がわざわざ殺さないように気をつけて魂を集めなくても、あっちから提供してくれますから」
「テメェ…」


土方は、初めて沖田に恐怖を覚えた。
こんな、こんな人間だっただろうか。
沖田は、こんな…ひび割れたガラスのような人間だっただろうか。
脆くて危うくて、今にも壊れそうで酷く危なくて…。
『半年前』…自分が何とかしてやれていたら…。
後悔ばかりが押し寄せる。
そんな土方の姿を見つめた後、沖田は今度こそ歩き去ろうとする。
だが、途中で足を止め、独り言のように呟いた。


「そういえば…あの子、千鶴ちゃんって言ったっけ。純粋で、真っ直ぐで、健気で…一度好きになった人には、一途に尽くしそうだよね」


相手が僕を好きになればなるほど、奪える魂の量は増える…あの子の魂なら、全て奪うことも容易そうだよね。
そう笑いながら言った後、沖田は夜の闇の中へと消えていった。


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