02



その日の放課後。
千鶴は平助と共に二年の教室に来ていた。
斎藤のいる教室の前に来ると、何だか人だかりが出来ている。
何だろう、と思って平助に尋ねると、いつものことなのだろう。
平助は自然に答えてくれた。


「ああ、総司と一君のファンだよ。あの二人モテるからさー、こんなの日常茶飯事だよ」
「フ、ファン…」


それにしては、かなりの人数である。
総司ー、一くーんと慣れたように入っていく平助を千鶴は慌てて追いかけた。
二人を探して教室の中をうろうろしていると、後ろから声をかけられる。


「平助に千鶴ちゃんじゃない、こんなとこでどうしたの?」


慌てて後ろを振り向く。
そこにいたのは、沖田だった。
隣にいるのは、髪を緩く巻いた可愛らしい女の子。
女の子が沖田の腕に手を絡ませている。
千鶴は、唐突に平助に聞いた話を思い出した。
酷い女嫌いで、だけど女癖が悪い…。


「ねぇ総司ぃ…知り合い?」
「友達と、その幼なじみだよ」
「へぇ〜…」


甘ったるい声を出しながら、女が沖田に尋ねる。
沖田が答えると、納得したような声を出しながらも沖田にわからないように千鶴を睨み付けた。


「そうだったんだぁ!てっきり総司の彼女かと思っちゃった」
「まさか、有り得ないよ」
「だよねぇ、だって今日の彼女はあたしだもん!」


今日の、彼女。
あぁ、本当だったのかと心のどこかで納得する。
動けなくなってしまった千鶴の後ろから、平助が沖田に声をかけた。


「なぁ、一君知らね?」
「一君?彼なら日誌出しに行ったから、もうすぐ戻って……あ、帰ってきたよ」


教室の外が騒がしくなる。
そんな騒めきを全て無視して、斎藤は教室に入ってきた。
そして、沖田の姿を見つけるとまっすぐにこちらに歩いてくる。


「すまない、待たせたな」
「大丈夫だよ。あ、この二人が、一君に用があるってさ」
「この二人…?」


沖田の言葉に首をかしげ、周りを見渡す。
千鶴と平助の姿を見つけると、納得したような表情になった。


「あんた達か。して、用とはなんだ」
「それなんだけどさ、一君、成績いいじゃん?千鶴に教えてやってくれねぇか?」
「……雪村に?」
「そ、千鶴って途中編入だからさ、数ヶ月分抜けてんだよ」
「成る程な…」


事情を理解したらしい斎藤は、しばらく悩むような仕草をした後、隣にいる沖田に視線を向ける。
そして、ニヤリと口元を歪めた。


「なら、俺と総司で教えることにしよう」
「……え?」
「ちょ、一君?なんで僕もなのさ!」
「放課後でいいか?いや、むしろ放課後にしてくれ」
「え、無視?」
「え?あ、はい。時間ならいつでも…」
「決まりだな、ではさっそく始めることにしよう。場所は?」
「はーじーめーくーん!!」


慌てる沖田を無視して話を進めていく斎藤。
戸惑っているのは千鶴や平助も同じだった。
なんでさ、だの、一君一人でいいじゃないだのと不貞腐れている沖田に、斎藤はびしりと指差して、淡々と言い切った。


「あんたの度が過ぎた女遊びを諫めるいい機会だと思ったまでだ」


ピシ、と。
沖田の笑顔が固まった。


「そろそろ止めろ、俺にまで被害が及ぶ」
「なんでさ!別に一君には迷惑かけてないじゃない」
「………あんたは、その女で満足しているのか?」


その一言で、今度こそ沖田は笑顔を消した。


「……何それ、僕が、そんな理由でやってると思ってるの?」
「違うのか?」
「当たり前じゃない…っ、そんなこと、僕はしない!」
「ならば何故だ、現に、あんたの女遊びが始まったのは半年前から…っ」


何かを言い掛けた斎藤の口を、沖田が手で塞ぐ。
その表情は、普段の沖田とは似ても似つかないような脆く痛々しいものだった。
それを見て、斎藤ははっとしたような表情を浮かべ、小さく「すまない…」と謝罪する。
全く要点の掴めない会話だったが、二人にはお互い理解出来ていたのだろう。
沖田は静かに斎藤の口元から手を離すと、わかったよ、と呟いた。


「わかった、付き合ってあげる」
「いいのか?」
「一君が言ったんでしょ?」


そう皮肉混じりに笑う沖田は、既に普段通りの沖田に戻っていた。
隣の女に甘い笑みを向け、子供をあやすような口調で囁く。


「そういうわけだから、ごめんね?夜まで待ってくれるなら、相手してあげるけど」
「えぇ〜…でも、総司が言うなら夜まで待ってる」


そう言って渋々離れる女に手を振った沖田は、三人に向き直り、また笑った。


「じゃ、行こうか」







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