02



あれから、しばらく。
やっと笑いの収まった沖田と、同じく笑っていた平助、苦笑混じりだったもう一人の先輩、そして千鶴は座ってそれぞれの昼食を広げていた。
そして、やっと自己紹介が始まる。


「こいつはさ、俺の幼馴染なんだ。今日転校してきた」
「雪村千鶴です。えっと、よろしくお願いします!」


ペコリ、と頭を下げる。
そっと視線を上に持っていくと、黒髪の美形さんと目が合う。
深い藍色の瞳は、千鶴を興味深そうに写していた。


「俺の名は、斎藤一だ」
「斎藤先輩…ですね」


あまり表情を変えずに、斎藤は静かに自己紹介をした。
美しい波色の瞳が、感情を一切交えずに千鶴を映し出す。
沖田とは、まるで正反対だと千鶴は思った。
斎藤は、しばらく千鶴を見つめていたが不意に口を開き、先ほどと同じ質問を再びぶつける。


「…あんたと総司は、知り合いなのか?」
「え…?」
「総司と知り合いなのか、と聞いている。さきほどの会話を聞く限り、そうなのだろうが…。ならば、どこで知り合った?」


違和感。
そんな一言では片付けられない、異様な感覚が千鶴を襲う。
そうだ、さっきも。
学園長である近藤も、土方も、なぜか沖田を気にかけていた。
今も、そう。斎藤は、千鶴に、彼との関係性を少ししつこく尋ねてくる。
緊迫した空気が、和やかになりかけた屋上を侵食していった。
千鶴の喉から、飲み込みきれなかった空気が流れ落ちた、その時。


「この子さ、校長室さがして旧校舎まで迷い込んでたんだよね。たまたま僕が居合わせたから、校長室まで送ってあげたんだよ」


呼吸をするのも躊躇われるような、その空気を壊したのは、意外にも沖田だった。
綺麗な笑顔を浮かべ、その時の状況を説明していく。
射抜くような斎藤の視線から逃れた千鶴は、我知らずため息を付く。
そんな千鶴を、平助が心配そうに見つめていた。


「そういいわけだから、僕何も悪いことしてないよ?むしろ褒められるべきなんじゃないのかな。迷子の女の子を送ってあげたんだし」
「本当にそれだけか?」
「酷いなあ、一君。疑ってるの?左乃さんじゃないんだし、手なんか出さないから大丈夫だよ」
「……なら、いいが。あんたはもう少し自重するべきだ」
「はいはい。お説教なら土方先生ので十分間に合ってるから、もういいよ」


いつの間にか軽口の叩き合いのようになっている沖田と斎藤。
ペロリ、と悪戯っぽく舌を出した沖田に、斎藤がこれ見よがしに大きなため息をついた。
どうやら話し合いは終わったらしい。
元の笑顔に戻った平助が、弁当を開け、割り箸を割る。


「とりあえず食べようぜ。俺、もう腹へって…」
「…そうだな、時間をとってすまない」
「反省してるなら、今度ジュースでも奢ってね」
「誰もあんたには謝っていないだろう」


二人もそれに続いてパンを開ける。
千鶴は慌てて弁当を広げた。
箸を取り出し、両手を合わせて、おきまりの台詞を口にする。


「いただきます!」










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