02


次の日。
千鶴は、土方に連れられて1−Aの教室の前まで来ていた。
騒ぐ心臓を押さえ込み、必死に平静を保とうとする。
その様子を見ていた土方は、苦笑しながらも穏やかな声音で千鶴に声をかける。


「緊張してんのか?」
「は、はい…」
「まぁ、気持ちはわからなくもないが、気楽にいけ」
「はい…」


そう言って、振り返らずに、教室の中に入っていってしまう。
けれど、土方らしい、ぶっきらぼうで、でも温かいその励ましに、千鶴の中の不安は少しずつ溶けていった。
入って来い、と、土方の声が聞こえる。
大きく深呼吸して、目の前のドアを開けた。


「はじめまして、雪村千鶴です。魔法学園に通うのは初めてなので、至らない点もあると思いますが、これからよろしくお願いします」


少し早口になりながらも、なんとか言い切った。
思わず安堵のため息を溢していると、千鶴…?と小さな声で名前を呟かれた気がした。
慌てて頭を上げると、窓際の席に座っていた男の子と目が合った。
驚きと戸惑いが混ぜこぜになったような瞳が、徐々に喜びに染まっていく。
そして、彼は大きく千鶴の名前を叫んだ。


「千鶴っ!千鶴だよな!?久しぶり!!」


その無邪気な声に、幼いころの記憶が呼び戻されていく。
(千鶴!)
ああ、重なっていく。
幼い彼と、成長した彼とが。


「平助…君…?」
「そう!俺だよ。よかったぁ〜覚えててくれて」


心底安堵したような平助の声に、千鶴の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
その様子を見ていた土方が、驚いたように口を開く。


「お前ら…知り合いなのか?」
「そうそう!幼馴染なんだって、な、千鶴」
「うん。本当に小さいころのだけど…」
「なら、ちょうどいいな。お前の席は平助の隣だ。いろいろ教えてもらえ」


そう言われて、千鶴は急いで平助の隣へと向かう。
平助は嬉しそうに千鶴を迎えた。


「ホントに久しぶりだな、うわ、なんかすげえ懐かしい…」
「うん、私もだよ。平助君、身長伸びたね!」
「だろ?もう千鶴より高いぜ!…いろいろ話したいけどさ、今は土方先生が怖えから、昼休みにゆっくり話そうぜ?」


そう言って、きちんと椅子に座りなおす平助。
千鶴も、同じように座りなおした。
昼休みが待ち遠しい。
ノートと教科書を開きながら、千鶴は口元に小さく笑みを作っていた。


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