01


哀しい声が、聞こえた気がした。


「……?」
その不思議な感覚に、少女、雪村千鶴は思わず身を竦ませる。
まるで必死に助けを呼ぶかのような、男とも女ともつかないかすかな叫び声。
またか、とため息を付いた。


千鶴には、物心つく前からこの力があった。
他人の、心の声が聞こえる。
心を読む、読心術などの類ではない。
正確には、自分でも気づいていないような、小さなSOSを読み取るのだ。
これは彼女にしかない、前例のない力である。


幼いころに両親と死に別れて以来、千鶴は遠縁の雪村綱道に育てられてきた。
彼は、千鶴の力のことを知ると、今まで見たことのない、真剣な表情でこう言った。
「千鶴…その力は、決して人に知られてはいけないよ。悪い人に、利用されてしまうからね」


それは、魔法であって魔法でない力。
ずっと隠し続けてきたのだが、一週間前、運悪くそれがバレてしまい、魔法学園に入学することになってしまった。
ここにいて、誰かに利用されるよりは…と、考えた綱道が、昔馴染みの近藤が経営する薄桜魔法学園に彼女を入学させることを決めた。
千鶴も、綱道が自分のためを一番に考えていてくれていることを知っていたから、それを了承した。
そして、今日、ここにいる。


「…えっと、校長室って…どこだっけ?」
……のだが、千鶴は道に迷っていた。
まぁ、当然といえば当然である。
数ある魔法学園の中でもトップクラスの実績を誇る薄桜魔法学園。
そのありえない敷地の広さは、群を抜いていた。
しばらく歩き続けること一時間。
しかし、校長室は未だ見当たらない。


途方に暮れていたところに、あの声が聞こえてきた。
と、いうことは。
この近くに人がいる、ということである。
千鶴は迷わず走り出した。どんどんと、声は近くなる。


『ごめんね…』


助けを求める声に混じって、謝罪の声を聞いた、気がした。
そんな時。




「何してるの?」





数時間ぶりに、千鶴は自分以外の声を聞いた。



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